第32話 宝箱を探して
魔物の群れが現れては剣の錆になり、棍棒の餌食となり、魔法の被害者となる戦いが続く。
周囲を囲まれることも多々あったが、俺とカンタは冷静に対処して事なきを得る。流石にメラニーは魔物にとって鴨同然ではあったけれど、エリン先生が上手く護衛してくれたので怪我はしていない。
「はあ、はああ! ちょ、ちょっとこりゃしんどいっすね。キリがねえや」
「メラニーつかれた。もう魔法無理ー」
押し寄せてくる魔物達を倒し続けて数十分というところで、二人がバテバテになっていた。まあ流石に厳しいか。一体何匹の魔物を倒したのかは想像もつかないが、三桁を超えていることは間違いない。
エリン先生は何か満足気といった表情で、今日もメガネを光らせている。
「皆さん、最初の探索でこれだけ魔物を倒せるのは相当なことですよ。特にグレイド様、指示が的確にできていて二重丸です」
「お褒めに預かり光栄だ。あと少しだけ探索したら帰るとするか」
魔物の数も十分に減らしたので、人里にはしばらく現れないはずだ。一つの目的は達成した。だがもう一つ達成するべきものがある。
俺はとうとう、奥まったけもの道の向こう側にある宝箱を発見した。
「わああ! おにーさま、どうしてこんな所に宝箱があるの?」
「さあな。ま、知らんがいただいていくとしようか」
興味津々で問いかける妹に、俺は明確な答えを出せない。っていうか、こういうところも原作そのまんまなのね。
「宝探しってワクワクするっすね。トレジャーハンターの気持ちが分かるっていうか」
「悪くはないな」
ゲーム中では未知の宝がいくつも存在し、そればかりを追いかけていく職業も存在する。俺もできればそんな気楽なポジションにつきたかったわ。
まあ、無い物ねだりをしてもしょうがない。気を取り直して宝箱を開けてみた。すると、中から赤と黒が混ざり合った大きな鉱石が入っていた。
「あら、これはフォレスト鉱石ですね。ロージアンではほとんど採取しきってしまったという噂だったのですけど。この大きさはとても珍しいですよ」
おおお、ゲーム中のデザインと全く同じだ!
なんていうか、これで武器を作れると思うとロマンを感じてしまう。
「これどうするのー?」
「どうするかな。差し当たって、武器でも作るとしようか」
「坊ちゃんの剣、そろそろ限界っすもんね」
カンタの棍棒も崩壊しかかっていたが、俺の剣も刃こぼれが酷い。今回のことでレベルも上がっているだろうし、結果としては良好といえた。
よーし! 次は武器を作りに行こう。
◇
ポーン家の領地内には武器屋が数店舗存在するが、鍛冶職人はたった一人しかいない。しかも、かなり気難しいことで有名だった。
他の領地の鍛冶職人を探すでもいいんだけど、ここで依頼することに高い価値があったんだ。
なにしろ出来上がった時の攻撃力、耐久性といったステータスは職人の腕によって変わる。さらにはフォレスト鉱石で作られた武器は耐久性が段違いであり、五十年は持つとさえ言われる。
まあ、五十年というのは町人の大袈裟な表現としても、長く使える武器は是非欲しい。
俺達は領地に帰ると、すぐさま鍛冶職人の元へとやってきた。丸くて小さな家は外目からでも古めかしく、カンタが乱暴に体当たりでもすれば崩壊するのではと思うほどだ。
「主人はいるか」
とりあえず普通に入ってみる。すると中からくぐもった声でドワーフみたいなおっさんが出てきた。
「アンタらは? ……は!? ま、まさか、グレイド様!? ひいいいい!」
俺は呆然とした顔で立ち尽くした。この人になんかしたっけ?
エリン先生は無表情だったが、カンタとメラニーはあちゃぁ、という顔になっていた。
「坊ちゃん。何かやりましたね、ここで」
「おにーさまのよざい発見っ」
「ひー!」
まだ叫んでるよこのドワーフおじさん。とりあえず、このままでは埒が開かない。
「記憶にはないが、俺が何かしたか」
「そ、そそその目が不敬だと絡んできて、俺の前住んでいた家ごとぶっ潰したじゃないですかぁ!」
家ごと!? グレイドの奴め、なんてダイナミックな真似を!
「それはすまんことをしたな。詫びよう。お前の壊れた家代も弁償する」
「へ!? べ、弁償ですか」
「ああ。全額払おう。それと、一つ仕事も頼みたい」
「ほ……本当ですか。ワシにできることでしたら、やりますが」
あっさりと了承してくれたよ!
うーん。過去の悪事があったせいか、なんか逆に頼みやすくなってる気がする。交渉の仕方とかいろいろ考えてたんだけどなぁ。なんか複雑。
「カンタ。物を見せてやれ」
「へい!」
威勢よく宝箱を床に置き、パカっと開いたところで職人はまたしても驚きに目を見張った。
「こ、これは! フォレスト鉱石。一体これだけの量を、どこから……」
「南方の森からです。探索ついでに見つけたものですが」
とエリン先生が説明してくれた。しかし、このサイズでは防具までは無理っぽいな。
「これを使って長剣と片手剣、棍棒、それから杖を作ってほしい。できるか」
ドワーフおじさんはしばらく呆けていたが、徐々にワナワナと震え出した。
「できます! ええできますとも。久しぶりの大物だぁ! 是非作らせてくだせえな」
サクッと了承してくれて、俺はちょっとホッとした。この後、あまり上手いとは言い難い俺のイラストを設計図として、武器作りを正式に依頼することに成功したのだった。
よし順調! きっと大丈夫! とはまだまだ安心できない。
武器と仲間の強化はできても、まるで歯が立たないかもしれないトラブルが起こる可能性もある。人生って、どうしてこうも前途多難なんでしょうね。
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