第31話 森の探索

 久しぶりの休日がきたが、俺に休んでいる時間はない。


 エリン先生と俺、カンタとメラニーの四人で訪れたのは、領地からはるか南に進んだ先にある森だった。この辺りは誰の領地とも言い難い場所となっており、強いていうなら王族が管理していることになる。


 ただ、管理とは言っても魔物が多く存在している危険なスポットだ。年に何度か討伐隊を送って数を減らしてはいるものの、三ヶ月もすればまた溢れんばかりに増え、人里に現れ始めることがあった。


「せんせー! 今日は遠足なの?」


 森の前で仁王立ちしているエリン先生に、元気よくメラニーが質問した。


「いいえ。今日は歴とした魔物討伐です。メラニー様も、お二人も気を引き締めて下さいましね」

「いやーマジでやるんすね。俺としちゃあ暴れられるのは楽しい限りっすよ。坊ちゃん、準備は大丈夫ですか?」


 カンタの問いかけに、俺は軽くうなづいて答える。準備については問題ない。武器も道具も可能な限り用意してある。


「今回はグレイド様たっての希望ですからね。私としては、森の中での戦いはリスクが大きいので、お勧めはできないのですが」


 そう。今回の授業は実戦形式で魔物との戦いを学ぼうというもので、場所については事前アンケートがあった。メラニーは別大陸の北国を指名したので却下。カンタは特に希望がなく俺に任せるという話だった。


 俺がこの森を希望したのは三つほど理由があった。


 まず、この森は例年よりも魔物の繁殖が進んでいて、放っておくと討伐隊が送られるより前に、近場の村や町が襲われてしまうからだ。


 次の理由としては、単純にカンタやメラニーを鍛えるのにちょうど良いレベルの敵ばかりだったから。レベルや強さは視覚的には見ることが不可能だが、現在までに二人にやれること、やれないことを見る限り大体の推測はついていた。


 多分だけど、カンタやメラニーはレベル的には十五〜二十の間くらいだと思う。


 俺自身のレベルもきっと、その辺りになっているはず。物理的な変化は分かりづらいが、使える魔法やスキルで予想している。とにかく、せっかく戦いを手伝ってくれるのだから、自身も含めて強くなっておかないと。


 最後の三つ目。実はこの森の中に落ちている資源が、俺にとって非常に重要な意味を持っていたということ。運命の日を迎えるにあたり、それなりに武器を揃える必要がある。特に耐久面に優れたものが欲しい。


「ではグレイド様。あなたがリーダーとなり、この森を探索してみて下さい。私はメラニー様を護衛しつつ、後ろから様子を確認させていただきます。良いですか?」

「問題ない。行くぞ」

「うっす!」

「はーい! 野生の動物さんに会える! 楽しみー」


 メラニーの中では動物園にいるような感覚らしい。本当に大丈夫かなー。


 呑気なお子様に不安を覚えつつも、俺は森の中へと足を踏み入れた。地図を貰っていたので、方位磁石で位置を確認しながら進む。


 森の中は魔物だけではなく、ありとあらゆる動物達の隠れ家だ。どんな目に遭うか分からないので、慎重に様子を見ながら歩かないといけない。


 だが、トゲトゲの棍棒を持ったカンタは、こういった場所には慣れていない様子だ。隣でキョロキョロしながら歩いていたところ、何者かの尻尾を踏みつけた。


「うおわ!? な、なんだ!」


 戸惑いつつ叫んだカンタを前にして、怒り心頭の鳴き声を響かせたのは魔物だった。見た目はキングコブラのようだが、そのサイズたるやまるで象みたいだ。


 ギガントコブラと呼ばれている種族で、人間すら軽く丸呑みにしてしまう。


「カンタ、下がれ! 毒液がくるぞ」

「はい!? うおおお!」


 言ってる側からコブラは口から黄色くドロついた液体を吐き出した。動体視力と反応の良さから、カンタは上手く液体を避けてバックステップをした。


「わわわ! コブラさん、おっきい」


 さすがに怖くなったのか、メラニーも慌てた声を出している。まあ先生がついているから問題ないだろう。そして、この戦いでは魔法はまだ必要ない。


 俺は奴の死角から剣を滑らせ、長い体から頭を切り離した。少しの地鳴りと共に落下した頭に銀色の切っ先が貫通し、まず最初の魔物を仕留めた。


「ふふふ。幸先が良いですね。この調子で行きましょう」

「め、メラニー、次はおにーさまのために頑張る」

「坊ちゃん、やっぱすげえや!」


 先生やカンタからはお褒めの言葉をいただき、メラニーはやる気を出してくれた。にしても可愛いなぁうちの妹は!


 まず最初の戦いで勝った俺たちは、徐々に勢いに乗り始めた。地図を確認しつつ、森全体を満遍なく調べていく。


 続いて現れたスライムやワーウルフといった魔物の群れは、カンタが棍棒で蹴散らした後、メラニーがサンダーを放って感電させて倒しきった。もし勝ちきれなくても、すぐに俺が追撃可能だったのでゲームで言えば一ターンキルだろう。


「それにしてもグレイド様。地図や磁石を持っているとはいえ、進み方が非常に円滑ですね。まるで以前来たことがあるような無駄のなさです」


 エリン先生が疑問まじりに言うので内心ドキッとした。何度もゲーム中ではクリアしている場所だったので、実際は地図もいらないくらいだった。だけど、正直に言うわけにもいかない。


「この程度の道なら、把握することは容易い。伊達にポーン家の男ではないのだぞ」


 説得力あったかなぁと、ちょっと心配になっているとカンタがうんうんと頷いた。


「流石は坊ちゃん! ここ一年の覚醒っぷりが半端ねえっすよ。マジ、どうしちゃったんだって思うくらいっす」

「成程。この一年でですか」


 う、うーん。カンタがフォローしてくれたみたいだが、なんか怪しさに拍車がかかっちゃうな。


「おにーさまは変わった! メラニーのことぶたなくなった! レディーに優しくなったのだ」

「誰がレディーだ」


 キャッキャしながら駆け回るメラニーがレディになるのは、相当未来のことになりそう。


 ただ、こうやって騒ぐので魔物にはどんどん気づかれてしまい、予想していた以上に戦闘をすることになってしまった。

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