一刻を争う戦い
その時だった。突如、
「こんな……つもりでは……! 俺はまだ、死ぬわけにはいかないというのに!」
彼は必死に立ち上がろうとした。しかし、その両脚には力が入らない。その目の前では
「終わりだね……架神。僕はこれから、この人工衛星を稼働させているメインコンピューターを探しに行くよ」
標的が動かなくなれば、後は命を奪う必要もない。どのみちこのまま放っておけば、架神は命を落とすこととなるだろう。
「俺は戦争に勝てても、ICの宿命には勝てなかった。俺も、お前も、遺伝子の奴隷だ」
そんな一言を遺し、架神はその場で気を失った。そんな彼に背を向け、翔太はその場から駆け出した。この少年が勝利を手にするには、ガンマ砲を止めなければならない。
「ガンマ砲発射まで、残り三分」
アナウンスは容赦なくカウントダウンを続けている。翔太は手あたり次第に扉を開き、様々な部屋を漁っていく。この人工衛星の中には空き部屋が多く、そのほとんどは彼を迷わせるためのダミーでしかなかった。
「ガンマ砲発射まで、残り二分」
翔太が駆け回っている間にも、ガンマ砲の発射準備は整いつつある。もし彼がメインコンピューターを破壊できなければ、地球が滅びるまで後わずか二分しか残されていない。
「間に合え! 狼愛の愛した世界を、僕が守るんだ!」
血眼になりつつ、彼はメインコンピューターのある部屋を探し続ける。そうして彼は最深部に辿り着き、いよいよお目当ての部屋を引き当てた。
空調の良い部屋には、何台ものサーバーと大きなコンピューターがあった。彼は周囲の機材を蹴り壊そうと試みたが、いずれもバリアのようなものを張っていた。少なくとも、これらの機材を物理的に破壊することは難しそうだ。そこで翔太はメインコンピューターの前に立ち、キーボードに目を遣った。そのすぐ横には、一枚のメモ用紙が置かれている。
「翔太へ。この人工衛星は、ガンマ砲を止められたら自爆する。もう誰も、お前を迎えには来られなくなるだろう。しかし、もしお前が命を張るに値するのなら、この世界にはそれだけの価値があるということだ」
その書き置きを見て、翔太はふと考える。
「架神。君にも、迷いがあったんだね……」
この時、彼は初めて、架神の憎しみ以外の感情に触れた。翔太の中で、数多の感情が渦巻いていく。
「最後の最後で、君は証明した。どんな憎しみに駆られていても、この世界を壊そうとしても……君もまた、一人の人間なんだね」
無論、彼にはあまり感傷に浸っている時間はない。
「ガンマ砲発射まで、残り一分」
残された時間は、後一分だ。翔太はすぐにキーボードを操作し、メインコンピューターのプログラムを書き換えようと試みた。しかしコンピューターには厳重なプロテクトが施されており、幾度となくハッキングを繰り返してきた彼でさえ手に負えない代物だった。
「間に合え! 間に合え!」
彼が試行錯誤を繰り返している間にも、ガンマ砲は発射準備を進めている。
「三十、二十九、二十八……」
もはや地球の滅亡は目前だ。
「上等だよ……架神! この世界には、命を張るだけの価値がある! こんな腐敗した世界でも、僕は義父さんや
翔太の目の前のモニターは、一面がスクリプトで埋め尽くされている。この構文に一つでも間違いがあれば、人類に未来はない。
「六、五、四……」
後ほんの数秒で、人類の安否が決まる。
「僕は、この命を捧げる!」
彼は声を張り上げ、エンターキーを強く叩いた。
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