叛逆の始まり
ICプロジェクトの資料を持ち帰った
「
彼のボイスチェンジャーを介した声は、ヴァランガ帝国の官邸に響き渡った。奇しくも、その帝国も狐火国と同じ方法で戦争を勝ち抜こうとしていた。
「狐火の連中もか……面白い。しかし敵国にわざわざそんな情報を明け渡すということは、脅しをかけているのか? フッ……無意味なことを」
「いや、俺は祖国を憎んでいる。もし狐火との戦争に勝ちたいのなら、研究施設を襲うと良い。ICを作り出せば命を奪われるという圧をかけるんだ……先ずは見せしめに、現存の研究員を殲滅すると良いだろう」
「なるほど……面白い。ICプロジェクトについて知った君は、科学者への復讐を果たしたい……そんなところだろう。だが我々の利害は一致している。乗ってやろうではないか……君の話に」
交渉は成立した。
それから数日後、狐火国でICを製造している様々な施設が奇襲を受けた。出撃を指示された架神はオウマガトキに乗り、さっそく狐火国で最も大きな研究施設に向かった。奇しくも、その場所は彼自身が生み出された場所だ。彼の目の前で、彼自身の故郷が破壊されていく。その様子を前にして、架神は不敵な笑みを浮かべた。
「よくやってくれたよ……ヴァランガ軍。だが、俺の心はまだ満たされない。この復讐はまだ、ほんの序の口だ」
この当時からすでに、彼は更に大きな規模の復讐を目論んでいたようだ。そんな彼の凶行など知る由もなく、ICたちは必死にヴァランガ軍と交戦していった。多くの命が散っていく中、架神はわざと手を抜いていた。彼の目的は敵国に勝つことではなく、敵勢に研究員を殲滅させることだったからだ。結局、彼を生み出した研究施設は倒壊し、研究チームたちのほとんどは殺害された。
この戦いの中で、架神はもう一つの真実を実感した。元より、ヴァランガ帝国もICを戦争の道具にしていることはすでに把握済みだったが、百聞は一見に如かずというものだ。目の前で散っていく敵国のICたちを目に焼き付け、彼は思った。
「どうやら俺の敵は、狐火国だけではないらしいな」
震える手で操縦桿を握り締めつつ、彼は唇を噛みしめた。
無論、研究施設が奇襲を受けたことが公になれば、ICプロジェクトのことも国民に知れ渡ることとなるだろう。ゆえに他国からの攻撃を受けておきながらも、国家はこの惨劇を揉み消した。
それからというもの、架神はトレーニング室に籠るようになった。事情を知らない兵士たちは、彼を熱心な愛国者だと信じてやまなかった。その実、彼はある準備を進めていた。彼は様々な戦争を勝ち抜き、その強さを周囲に知らしめていった。また、彼はたびたびスカイネストから脱走し、秘密裏に人工衛星を作っていた。軍はその勝手な行動に頭を悩まされていたが、彼が狐火軍随一の実力者であることもまた事実だ。ゆえに彼は、ある程度の自由を保障されてきた。無論、そんな彼にも抗えないものはある。
――寿命だ。
あれから数年の時が流れ、架神の体に異変が起き始めた。彼はトレーニング中に気を失うことが増え、嘔吐や吐血が目立つようにもなった。その原因が己の遺伝子にあることは、彼からしてみれば至極明確なことであった。
「ついに近づいてきたか……俺の寿命が。急がないとな。一刻も早く、ジャッジメントを完成させなければ……!」
彼にはもう、あまり時間が残されていない。彼は錠剤を飲み始め、どうにか己の身を保っていった。
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