防災無線

 一方、地上には無数の機龍兵が散らばっていた。孝之たかゆきはため息をつき、独り言を呟く。

「燃料切れか……これ以上の機龍兵が来たらまずいな」

 一先ず、彼はレジェンドから降りた。辺り一面には敵機の残骸だけでなく、架神かがみのクーデターに巻き込まれた者たちの死体も転がっている。ビルのほとんどは倒壊しており、復興は極めて難航しそうだ。


 そんな中、倒れた柱についている拡声器から、とんでもない放送が流れてくる。

「速報です。人工衛星ジャッジメントが、ガンマ線バーストを引き起こす準備を整えています。繰り返します。人工衛星ジャッジメントが、ガンマ線バーストを引き起こす準備を整えています」

 何やら、架神の凶行は地球にも伝わっていたようだ。孝之はすぐに携帯を開き、その詳細を調べる。何やら、ジャッジメントの打ち上げに携わったチームの一人に、架神を裏切った者がいたらしい。彼はガンマ砲に細工し、ジャッジメントがガンマ線バーストを起こす前にそのことを地上に知らせる仕組みを組んでいたということだ。しかしガンマ砲の使用が地上に知らされたところで、人類には地球の滅亡を食い止める手段はない。ましてや、無数の機龍兵との戦いで多くの機龍が消耗した今、かの人工衛星に乗り込む手段すら確立されていないのが現状だ。

「やってくれるじゃねぇか……架神!」

 孝之は激怒した。やはりあの人工衛星を止めないからには、この事態に収拾をつけることなど叶わないようだ。

翔太しょうたァ……後のことは、頼んだぞ」

 そう口にするや否や、彼は膝から崩れ落ちた。そのまま無造作に地面に倒れ、彼は力尽きたように眠りに就いた。



 同じ頃、ジェラートは依然として二機のレジェンドと戦っていた。彼自身の乗る機体も含め、その宙域にいる機龍は全部で三機だ。いずれの機体も酷く消耗しており、その装甲の多くが剥がれ落ちている。外部に露出した配線は高圧電流を放っており、彼らの乗る機龍は今にも壊れそうだ。仮にこの戦いを生き抜いたとしても、こんな状態の機龍で地球に帰還するのは至難の業だろう。なお、地球に送られていた防災無線は、ジェラートのもとにも届いている。

「速報です。人工衛星ジャッジメントが、ガンマ線バーストを引き起こす準備を整えています。繰り返します。人工衛星ジャッジメントが、ガンマ線バーストを引き起こす準備を整えています」

 その知らせを聞き、ジェラートは息を呑んだ。この速報が意味するところはただ一つ――世界的な危機はすぐ目の前だ。

「だからワタシは反対したんだ! 戦争のための命など、生み出すべきではない! 罪のないボーイズ・アンド・ガールズを酷い目に遭わせてまで、ワタシたちは何を守るべきなんだ!」

 人柄が良いだけのことはあり、この男はICプロジェクトに反対していたようだ。無論、彼の一存でプロジェクトチームや軍隊が考えを変えるわけではない。ゆえに多くの命が弄ばれ、人類は今の悲劇に直面しているのだ。

「架神……もはやワタシは、ワタシたちを許して欲しいなどと傲慢なことは考えない。キミの怒りもよくわかる。それでもワタシは……」

 事情がどうであれ、架神の凶行は決して許されることではない。ジェラートはレジェンドを操作し、光の剣を振り回しながら敵機に接近していく。

「ワタシは、翔太に未来を託す! 全ての命が尊重される世界を信じる! もう誰にも、キミの抱いてきたような苦しみを背負わせないぞ! 架神!」

 そう叫んだ彼は、先ず一機の機龍を撃墜した。残る敵機は、後一機だ。

「そのためにも、ワタシは戦う!」

 ジェラートは操縦桿を握り、最後の一機の方へと照準を合わせた。

羽生はにゅう様の意志のままに!」

 架神の支持者もまた、同様に相手との距離を詰めていく。


 二本の光の剣が激しく衝突し、辺りは眩い光に包まれた。

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