共同戦線

 その頃、宇宙ではすでに三機の機龍が待機していた。これらは機龍兵ではなく、レジェンドだ。各々のコックピットには、ICが腰を降ろしている。

「こちらバニラ、イザヨイの存在を確認した! どうぞ!」

「こちらショコラ! ミサイルの発射準備は万端よ!」

「こちらグリーンティ。準備オッケーだゼ!」

 どういうわけか、三人は翔太と敵対している。何も知らない翔太しょうたはイザヨイの舵を切り、彼らの待ち構える宙域に到着した。

「なんだ……コイツらは……」

 彼は唖然とした。こちらに砲口を向けている三機が敵であることは、一目瞭然である。直後、イザヨイめがけて何発ものミサイルが発射された。同時に、他の二機はレーザー光線を連射し始め、翔太は戦闘を余儀なくされた。

「争っている場合じゃないのに……!」

 無論、今は三人を説得している余裕などない。翔太は彼らの攻撃をかわしつつ、こちらからもレーザー光線を放ち始めた。しかしレジェンドは、一度彼を死の危機にまで追いやった機体だ。三機は凄まじい速さで飛び回り、レーザー光線をかわしていく。この戦いは翔太にとって、世界を守るための戦いだ。一方で、敵勢は違う目的で戦っている。

羽生はにゅう様の望みは、このバニラ様が叶える!」

「羽生様の意志のままに!」

「全部ブチ壊してやるゼ! 俺たちを産み落としたことを後悔しろ!」

 数多の命が弄ばれる世界において、架神かがみの思想は決して支持を得ないものではなかった。三人を突き動かすものは、架神への忠誠心と世界への憎しみだ。それからも彼らはレーザー光線を撃ち続け、イザヨイに風穴を開けていった。宇宙空間で機体を破壊されようものならば、今度こそ翔太は命を落とすだろう。


 その時だった。


 突如その場に、更にもう一機のレジェンドが到着した。その機龍は荷電粒子砲を放ち、まずはバニラの乗る機体を撃墜した。何やらこの場に現れたのは、翔太の味方らしい。しかし彼には、その心当たりなど無い。

「誰……だ?」

 その光景を前に、翔太は困惑した。そんな彼に対し、何者かが通信機越しに話しかけてくる。

「こちらジェラート。ヴァランガ軍の少佐だ。どうぞ」

 ジェラートだ。翔太はこの男のことを知らなかったが、孝之から少しだけ話を伺っている。

「孝之を行かせてくれてありがとう。おまけに今は、僕を助けに来てくれた。君は本当に、敵対国の人間なのかい?」

「ワタシにとって、国境は絶対の障壁ではない。ましてや人類滅亡の危機を迎えている時に、我々がいがみ合っている場合ではない。そうだろう? ボーイ」

「……安心したのか、胸糞が悪いのかわからないね。戦場に立っているのは、いつも等身大の人間だ――たった今、それを再確認したよ」

 つい最近まで敵対していた二人は、共通の敵を前にして結託した。何はともあれ、これで形勢は二対二だ。二機のレジェンドを相手にしつつ、ジェラートと翔太は話を続ける。

「ボーイ。ワタシはそろそろ、軍から引退しようと考えている。そしたらワタシが、キミとの里親になろうと思っているんだ。もし、ボーイさえ良ければね」

「少佐……」

「キミからは不思議と、国境の隔たりを感じないんだ。何があろうと、決して崩れることのない家族……ワタシたちになら、築き上げられる気がしないか?」

 悪くない提案である。翔太は屈託のない笑みを浮かべ、返答する。

「釣りをしたことはあるかい?」

「嗜む程度には。まあ、全然釣れないが」

「今度教えてあげるよ。僕がお義父さんと呼べる人間はもうこの世にはいないけれど、それでも君が家族になるのは悪い気がしないからね。おじさん」

 それが彼の答えだ。ジェラートは微笑み、彼に人類の未来を託す。

「ここはワタシが引き受ける。行ってこい、翔太!」

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