増援

 機龍兵の軍勢との戦いにより、レジェンドの装甲は徐々に剥がれ落ちていった。孝之たかゆきは歯を食い縛り、何発ものミサイルを発射する。しかし架神の組んだAIによって飛び回っている機龍兵は、彼の攻撃を難なくかわしていく。そこで今度はレーザー光線を発射し、孝之は標的の狙撃を試みる。その挙動すらも読まれ、彼は致命的な危機に陥ってしまう。

「まずいな……燃料が残りわずかだ!」

 いくらレジェンドが高性能な機体であっても、数多くの敵を相手にしていては燃料が不足する。一方で、機龍兵は無慈悲にもその数を増し、その場に二十体以上は集結してしまった。今の彼は、まさしく蛇に睨まれた蛙だ。この時、彼はすでに己の生存を諦めかけていた。

「どうやらオレは、もうここまでのようだ。後は頼んだぞ……翔太しょうた

 そう呟いた彼は、静かに目を瞑った。直後、周囲は轟音に包まれ、真っ白な光に覆われた。


――どういうわけか、孝之は生きていた。


 彼は唖然とし、すぐに目を見開いた。彼の目の前で、無数のメタルコメットが機龍兵たちと戦っている。その光景を前に、孝之は安堵の笑みを浮かべた。

「皆、来てくれたのか」

 狐火きつねび軍のICたちは皆、戦争に巻き込まれた身の上だ。それでも彼らは今、世界を守るために自らの意志で戦っている。孝之は覚悟を決め、残りわずかな燃料でレジェンドを操縦する。

「そうだよな。まだ、オレたちが死ぬときじゃねぇ!」

 彼の瞳に光が宿った。メタルコメットのうちの一機が、レジェンドの背にホースを伸ばす。同時に、レジェンドの背にある給油口が開かれ、そこにホースの先端が差し込まれる。孝之の眼前のメーターはその数字を増していき、燃料が給油されていったことを指し示している。


 いよいよ反撃の時だ。


 レジェンドの右手に、光の剣が生成される。

「言っただろ、翔太! この場はオレが引き受けるってな!」

 孝之はそう叫び、操縦桿やレバーをいじくり回した。この時、彼はヴァランガ軍の捕虜にされた時のことを思い出していた。



 *



 それは数日前に遡る。

「ヘイ、ボーイ。キミは以前、羽生架神はにゅうかがみがクーデターを画策していると言っていたね?」

 話を切り出したのは、ジェラート少佐だった。孝之はコーラを飲みつつ、彼の質問に答える。

「ああ、翔太が騙されていなければそういうことになる。だが少なくともオレは、架神ならやりかねないと思っているよ。アイツは誰よりも先にICプロジェクトの真実を解き明かし、それをオレたちに話したからな」

 この当時から、彼は今のような惨状が起きることを予見していたのだろう。ジェラートはしばし考え、彼に質問する。

「ボーイは機龍を操縦したことはあるか?」

「いや、オレはメタルコメットにしか乗ったことがねぇ」

「……それはまずいな。架神との戦いに備えるには、機龍の扱いをマスターしておく必要がある。あのボーイが具体的に何をしてくるかは、わからないけどな」

 このままでは、孝之は架神との戦いで戦死することとなるだろう。

「何か策はあるのか?」

 彼は訊ねた。ジェラートの返答は、至ってシンプルなものである。

「相手の出方がわからない以上、正攻法で行くしかない。キミにはこれから、機龍のシミュレーションを受けてもらう」

 それが彼の出した答えである。彼はすぐに孝之を案内し、トレーニング室へと連れ込んだ。それからというもの、孝之は数日にわたって機龍の操縦をシミュレーションし続けた。



 *



 そして今、彼は実際にレジェンドを操縦している。

「ありがとよ……ジェラート少佐! おかげでオレも、戦えるってモンだ!」

 彼はトレーニング室でのことを思い出し、機龍兵の動きを読み始めた。それからは何機もの機龍兵が、次々と撃墜されていったのだった。

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