才原孝之

 翔太しょうたのもとに、更に十機の機龍兵が襲い掛かってきた。この時、彼はすでに疲弊しており、とても無数の敵機の相手をしていられる状態ではなかった。

「クソッ……まだ出てくるのか!」

 万事休すだ。イザヨイは今、数多くの機龍兵に包囲されている。上空にも三機の機龍兵が構えており、彼は今まさに絶望の淵に立たされていた。


 その時だった。


 一機のレジェンドがその場に現れ、イザヨイを取り囲む機龍兵を次々と狙撃していった。かつて翔太を翻弄した機龍の性能も、今この場においては実に頼もしいものである。唖然とする翔太のもとに、通信機を通した声が響き渡る。

「オレだ。孝之たかゆきだよ」

 どういうわけか、ヴァランガ軍の捕虜にされたはずの孝之がこの場に現れたのだ。

「孝之! 生きてたのか!」

 翔太の頬から、自然と笑みがこぼれた。何機もの機龍兵を相手にしつつ孝之は言う。

「ヴァランガ軍の少佐からのお達しだ。今はいがみ合っている場合じゃない、祖国のために戦ってこいってな。少佐も粋な奴だよ」

 何やら彼は、ジェラート少佐直々の命令によってこの場に赴いたようだ。一先ず、翔太は命の危機を脱したと考えて良いだろう。

「ありがとう……孝之、ヴァランガ軍の少佐。孝之と一緒なら、この戦いも乗り切れそうだよ」

 そう言い放った翔太は、希望に満ちた眼差しをしていた。そんな彼に対し、孝之は重要な仕事を託す。

「いや、この場はオレが引き受ける」

「孝之……?」

「やべぇ人工衛星が機龍兵を暴走させているんだろ? だったら翔太……アンタがすべきことはその人工衛星を破壊することだ」

 機龍兵にハッキングしている大元をどうにかしなければ、この事態が鎮まることもない。翔太は深く頷き、それから夢を語る。

「孝之。全てが片付いたら、僕たちは自由だ」

「……そうだな」

「そしたら街に出て、カラオケに行ったり、繁華街で食べ歩きをしたりさ……国に奪われた青春を取り戻していこうよ」

 悪くない約束だ。彼の考えに、孝之は微笑んだ。

「ああ。残り少ない人生だ。めいっぱい楽しまねぇとな」

「それじゃ、僕は行ってくる。全てに決着をつけるために」

「生きて帰って来いよ……翔太!」

 こうして二人は約束を交わした。イザヨイは上空へと飛び上がり、戦闘機のような形状に変形する。その姿を見送りつつ、孝之は機龍兵の群れと戦っていく。レジェンドは俊敏な動きで敵機の目を眩まし、次々とレーザー光線を撃っていく。

「見てるか! 架神かがみ! アンタの壊そうとしている世界は、オレたちICが守ろうとしている世界だ!」

 一機、また一機と機龍兵が撃墜される。レジェンドはその機動力もさることながら、レーザー光線の火力においても他の機龍を凌駕している。

「オレたちは生きられる! 例えそれが少ない時間であっても、この世界で生きていけるんだ!」

 孝之はレジェンドの口に荷電粒子を溜め、それを勢いよく発射する。この一撃により、辺りは激しい爆発に包まれた。この一撃により、四機ほどの機龍が沈められた。彼は安堵のため息をついたが、まだ安心するには早い。通信機越しに、翔太の声がする。

「その場の機龍兵は囮だ。他の機体は今頃、善良な市民を殺し続けているはずだ!」

「なるほどな。つまり、他のエリアに移動してでも他の機体を落とさねぇといけねぇわけだ」

「その通り。頼んだよ、孝之」

 荷の重い戦いだ。孝之は不敵な笑みを浮かべ、操縦桿を勢いよく回す。

「任せとけって。オレを信じろ!」

 彼の操縦により、レジェンドはその場を離れた。彼が移動した先は荒廃しかけている街で、数多の死骸が転がっている。一方で、まだ機龍兵から逃げ回っている生存者の姿も確認できる。

「翔太……オレもアンタを信じてるからな」

 そんな独り言を呟き、孝之は無数の敵機と戦い続けた。

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