機龍兵

 翔太しょうたはスカイネストの屋上に向かった。そこにあるのは何機ものメタルコメットと白い機龍であった。

「これがイザヨイ……か」

 新しく導入された新品であるだけのことはあり、イザヨイの装甲は綺麗な光沢をしていた。さっそく翔太は機龍に乗り、コックピットに腰を降ろす。イザヨイは戦闘機のような形状に変形し、ノズルスカートの先端にエネルギーを溜め込む。

「イザヨイ、発進!」

 翔太の掛け声と共に、イザヨイは空に飛び立っていった。



 彼が街を見渡せば、すでにいくつものビルが倒壊している。人々は遠隔操作型機龍から逃げ惑うが、次々と命を落としている。阿鼻叫喚の地獄を前に、翔太は呟く。

「なんとしても、機龍兵を殲滅しないと……!」

 機龍兵――それは遠隔操作型機龍の別名だ。彼はイザヨイを竜の形に変形させ、無数の敵機と戦っていく。しかし周囲にはおびただしい数の敵がいる。翔太には高火力のレーザー光線を溜める余裕などない。彼の操縦するイザヨイは光の剣を手に持ち、それを振り回していく。何機かの機龍兵が一刀両断されていく最中にも、他の機体が彼の機龍に襲い掛かる。いくらオボロヅキの後継機とは言え、周囲を覆い尽くすほどの軍勢を一機で相手にするのは酷な話だ。それでも翔太は、諦めるわけにはいかない。

「見ていてよ、狼愛ろあ! 君が愛した世界は、僕が守ってみせる!」

 イザヨイの剣の一振りにより、何発ものレーザーが弾き返される。装甲の至る所からレーザー砲が飛び出し、レーザー光線を連射していく。どういうわけか、機龍兵はいずれもイザヨイの動きを読んで立ち回っている。翔太の攻撃のほとんどは軽々かわされてしまい、その隙に別の機龍兵が彼に攻撃を仕掛けてくるのだ。


 その動きのパターンを見て、翔太はふと思い出す。

「この立ち回り、架神かがみの動きに似ているぞ。そうか、コイツらは、アイツが組んだAIで動いているんだ!」

 当然、それがわかったところで、彼に勝算が見えてくるわけではない。彼は依然として敵機の挙動に翻弄され、イザヨイの装甲はみるみるうちに傷ついていく。数多のレーザー光線が降り注ぐ中、翔太は焦りを感じていた。同時に、彼は架神への同情心も募らせている。

「架神……この光景は、君の抱いている怒りそのものなんだね。わかるよ。君の痛みは、僕が感じてきたものだから」

 一発、また一発と、イザヨイはレーザー光線に被弾していく。一方で、機龍兵も彼の攻撃によって着実に仕留められていく。そんな凄惨な戦いを繰り広げる中、翔太の脳裏には様々な出来事がよぎっていた。



 翔太は親元から引き剥がされた。彼は正和に虐げられ、戦場に立たされた。翔太は二度も狼愛と共に脱走したが、そのたびに連れ戻された。正和は狼愛に指示を出し、彼女に翔太の義父を殺害させた。そして先日の戦争で、狼愛は翔太を庇って死んだ。彼女の生きてきた証も、今やあの写真とキーホルダーだけだ。



 無論、今の翔太には感傷に浸っている余裕などない。それでも、心身ともに余裕を失っている今、彼は過去を省みずにはいられないのだ。

「最後の最後まで、僕はこの世界に振り回されてきたんだな。今こうして起きてる悲劇だって、ICプロジェクトがもたらしたことじゃないか」

 彼の目の前で、数多のビルが崩れ落ちていく。火の海に呑まれ、数多の人々が散っていく。そんな中、翔太の怒りは架神には向けられていなかった。彼は世界を憎みつつも、その世界を守ろうと戦っている。

「僕はほぼ全てを失った。今の僕に残されているものは、狼愛から受け継いだ想いだけだ!」

 それが彼の覚悟である。

「心があるから、人は強くなれる! 心があるから、人は大切なものを守り抜けるんだ!」

 翔太はボタンを押し、無数のミサイルを発射した。

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