因縁

 同じ頃、正和まさかずはスカイネストを操縦し、機龍兵の群れと戦っていた。この空母に詰まれている主砲は凄まじい火力を誇り、周囲の敵機を撃墜するには十分すぎる強さを誇っていた。そんな中、彼の目の前には一機のオウマガトキが飛び出してくる。


――架神かがみだ。


 オウマガトキは何発ものレーザー光線を放ち、こちらに攻撃を仕掛けてくる。無論、スカイネストはそう簡単に沈められる船ではない。

「面白い……機龍一機で私に挑むとは」

 そう呟いた正和は、コックピットにある青いボタンを押した。直後、スカイネストの表面は電磁波のようなものに包まれ、レーザー光線を跳ね返していった。


 無論、レーザー光線が効かなくとも、架神には打つ手がある。

「光が遮断されるなら、こちらにも打つ手はある」

 彼はそう言うと、何発ものミサイルを発射した。それでもスカイネストの装甲は極めて頑丈で、その表面には傷一つつかなかった。

「無意味なことを! 羽生架神はにゅうかがみ! 例え君がICプロジェクトの最高傑作であっても、機体の性能差を埋めることはままならぬだろう!」

 この時、正和は慢心していた。事実、たった一機の機龍と一つの巨大な空母では、前者にとって分の悪い戦いとなるだろう。スカイネストからミサイルが放たれ、オウマガトキを追い掛け回す。オウマガトキは必死に飛び回るが、逃げた先に高火力の荷電粒子砲を発射されてしまう。

「まずい……!」

 架神がそう叫んだのも束の間、彼の機龍は左腕を損傷した。彼に降りかかった危機は、ただそれだけではない。架神は突如、咳を繰り返し、大量の血を吐いた。例えこの戦いを生き抜くことが出来ても、彼にはもう十分な余命が残されていない。肩で息をしつつ、彼は懐から瓶を取り出した。その中に入っている錠剤を全て飲み干し、彼は声を張り上げる。

「悔いだけは残さない! 俺の命は後わずかだが、必ずこの世界に一矢を報いる! 俺はもうじき死ぬ……だが今はまだその時ではない!」

 その気迫に影響されるように、オウマガトキの動きが変わる。その機体は稲妻のような俊敏さで飛び回り、手元に光の剣を生成する。直後、スカイネストの装甲には切り傷が刻まれた。一発、二発、三発と、彼の斬撃は着実に眼前の空母を傷つけている。正和は息を呑み、眼前の敵機に起きていたことを悟る。

「そうか……羽生架神の奴、オウマガトキを改造したのだな! 従来のオウマガトキは、決してこれほどまでの性能を有してはいなかった! だが私とて軍人……ここで引き下がるわけにはいくまい!」

 冷血漢である前に、彼は一人の軍人だ。同時に、彼は一人の愛国者である。スカイネストは勢いよく加速し、オウマガトキの方へと突っ込んでいく。

「特攻か……だがそんな巨体で、今のオウマガトキの性能を超えられるか!」

 そう叫んだ架神は、操縦桿を勢いよく回した。彼の機龍は直角を描くようにカーブし、正和の目を眩ませる。

「私はずっと、祖国を背に戦ってきたのだ! 今は世界を背負っている! 君の怒りには、私の信念に値する価値などない!」

「お前の信念は数多の苦しみを生み出した! お前は百害あって一利なしの信念で、守る価値の無い世界を背負ってきただけだ! そうだろう! 大佐ァ!」

「違う! 仕方がなかったのだ! 万物は犠牲の上に立つ! そして私は祖国のために尽力した! ただそれだけなのだ!」

 当然、そんな理屈では架神を納得させることなど出来ない。

「大佐! 俺は絶対に、お前を許さない!」

 彼の怒りに呼応するように、オウマガトキは巨大な砲台に変形した。その砲口には、光の粒子が勢いよく束ねられている。一方で、装甲を削られ、バリアの弱まったスカイネストは、その節々から電気を漏電させていた。それでも正和はレバーを引き、オウマガトキへの特攻を試みた。

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