傀儡
一方、戦場と化した森には、更に十機ほどのレジェンドが到着していた。迷彩柄の機体は相変わらず森に溶け込んでおり、その機敏な挙動も相まって見失われやすい。そこで
「木を隠すならなんとやら……だね。だがこれで、もうどこにも隠れられまい」
彼の乗り回すオウマガトキから、凄まじい火力の炎が放たれた。森は一瞬にして焼き払われ、撃墜された者や戦闘機から脱出した者たちが業火に呑まれていく。地上は今、阿鼻叫喚の地獄と化している。
「今度こそ、本当に死ぬかも知れない。だけど、僕があの二人を守らないと……!」
翔太はそう言ったが、その周囲はすでに五機のレジェンドに囲まれていた。その全てが口に荷電粒子を溜め、レーザー光線を放とうとしている。
しかし彼らは、翔太の術中にはまっていた。
「今だ」
突如、オボロヅキは上空へと飛び出した。それと同時に、五機のレジェンドは荷電粒子砲を放ち、互いを巻き込んでしまう。
「しまった……!」
「やってくれたな……狐火の野郎!」
「まずい!」
「クソッ!」
「小癪な真似を!」
それが五機のパイロットたちの最期の言葉となった。彼らの機龍は勢いよく爆発し、その破片は周囲に飛び散った。それでも翔太には、まだ気を抜いている余裕はない。
「あと八機か……!」
狐火軍には、機龍が二機しかない。対して、ヴァランガ軍の持つ機龍は後八機も残っている。
そんな絶望的な戦況を前にしても、架神は至って冷静だ。
「俺たちは負けない。少なくとも、俺があの計画を実行するまでは……」
野心――それが彼を突き動かす原動力だ。彼の操縦するオウマガトキは機敏な動きでレジェンドの群れを翻弄しつつ、レーザー光線を連射していく。その最中に敵陣の戦闘機が近くを通りかかれば、オウマガトキの生み出す光の剣はそれを一刀両断する。架神は小細工に頼ることなく、翔太を凌駕する実力を発揮している。翔太より先に作られた彼は、実戦の経験を多く積んでいるのだろう。数多の敵と戦う中で、架神は不穏なことを呟く。
「
何やら彼は、何らかの形で孝之を利用するつもりでいるらしい。そんなことはつゆ知らず、翔太は彼と共に戦場で戦い続けた。
一方、ヴァランガ軍の空母では、孝之が三人の男に取り押さえられていた。彼は必死に抵抗を試みたが、多勢に無勢だった。
「離せ! オレをどうするつもりだ!」
彼は叫んだ。そこに一人の中年男性が通りかかり、男たちに指示を出す。
「ヘェイ! このボーイを殺すなよ? こっちが人質を取っていた方が、ゲームに有利になるからねぇ。アンダスタン?」
その指示に、男たちはすぐに頷く。
「了解!」
「了解!」
「了解!」
そんな中、孝之は苦笑しながらため息をつき、中年男性に忠告する。
「意味ねぇぞ、それ。アイツらは命を使い捨てる輩だ。オレ一人が捕まろうと、拷問を受けようと、殺されようと、連中は動じねぇよ」
彼は祖国の冷酷さをよく理解していた。
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