レジェンド

 翌日、狐火きつねび軍の兵士たちに出撃命令が下った。翔太しょうたがスカイネストの屋上に赴くと、そこには修復の完了したオボロヅキがあった。彼はその機龍に搭乗し、操縦席に腰を降ろす。

「この戦いが終われば、僕たちは自由になれる! オボロヅキ、発進!」

 そんな淡い期待を胸に、翔太はオボロヅキを発進させた。同時に、架神かがみも自分の機龍を操縦し始める。

「オウマガトキ、発進」

 彼らに続き、何機ものメタルコメットが列を為して離陸していく。それから兵士たちは息を合わせ、機体を横に並べて編隊飛行をする。彼らが目指す先は、木々の生い茂る森だ。



 彼らが目的地に到着した時、敵勢はすでに臨戦態勢だった。こちらには二機の機龍があるが、敵陣には三機の機龍があった。ヴァランガ軍の所有する機龍は迷彩柄であり、背景に上手く溶け込んでいる。


 敵陣の大将は笑う。

「フフフ……我々の技術力の結晶、レジェンドの力を見せてやろう!」

 レジェンド――それが連中の所有する機龍の名前だ。彼らはさっそく、狐火軍のメタルコメットを淡々と撃ち落としていった。それに応戦するように、翔太と架神も数機の戦闘機を撃墜していく。それでも彼らには限界があった。


 二人は戦闘の天才だが、機龍自体の性能の差は埋められない。


 自陣のメタルコメットが次々と撃ち落とされていく中で、翔太は焦りを感じていた。

狼愛ろあも、孝之たかゆきも、大丈夫かな……」

 彼はあの二人のことを考えていた。そんな心配を他所に、二人は敵からの攻撃をかわしながらレーザー光線を連射していた。無論、相手が振るう猛威はレジェンドだけではない。戦闘機の性能においても、ヴァランガ帝国は圧倒的な力を誇っている。ゆえに狼愛たちの攻撃は、敵軍の兵士たちにあっけなくかわされてしまう。この時、狐火軍はすでに絶望の淵に立たされていた。


 ヴァランガ軍の大将は次の指示を出す。

「こちらアイスバーグ、増援を要請する!」

 その一言に従い、その場に何機もの戦闘機が駆け付けてきた。

「ふっ……増援か。愚かなことを」

 架神は何発ものミサイルを発射し、眼前から迫る機体の群れを爆撃していく。敵勢の視界は、爆発の煙に覆われていく。無論、架神はこの隙を見逃しはしなかった。彼は通信機を使い、孝之に指示を下す。

「飛行機雲を頼りに、ヴァランガ軍の空母を探せ。連中の増援がすぐに来た辺り、相手の空母はそう遠くには無いはずだ。どうぞ」

「侵入して暴れれば良いってことか? どうぞ」

「ああ、その通りだ」

 これは危険な賭けだが、今の戦況を変えるには手段を選んでいる場合ではないだろう。通信の切られた音を聞き、孝之は飛行機雲をなぞるように飛んでいった。



 戦場で多くの命が散っていく最中、孝之はヴァランガ軍の空母を発見した。空母は空に浮かんでおり、その表面には迷彩柄があしらわれていた。空母の周囲はたくさんの戦闘機に護衛されており、正面から突入するのは容易ではなさそうだ。しかし孝之には、作戦を長考している余裕などない。

「この際、撃墜されても構わねぇ。要はあの空母に墜落すれば良いってことだ!」

 その作戦で下手を打てば、彼は間違いなく命を落とすこととなるだろう。それでも彼は、そうするしかない状況だ。無数のレーザー光線を浴びつつ、孝之はメタルコメットを加速させた。そして空母の壁に追突する寸前に、彼はベイルアウトする。


 その瞬間、メタルコメットは勢いよく爆発した。


 まさに間一髪であった。空母に空いた穴は激しく燃え盛っていたが、痛みを感じない孝之は何の躊躇いもなくそこに侵入した。

「この船を落とせば……オレたちの勝ちだ!」

 彼は廊下を駆け巡り、操縦室を目指す。その道中、彼は何度も敵に囲まれたが、そのたびに相手を射殺していった。

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