奇襲

 それからも、翔太しょうた狼愛ろあと共に無人島を練り歩いた。草むらには様々な野生動物が生息し、時に二人を襲うこともあった。しかし翔太は架神かがみの遺伝子をベースに生み出された戦闘の天才だ。彼はあらかじめ用意しておいた光線銃やナイフを駆使し、行く手を阻む獣たちを次々と仕留めていった。

「ここは自由だけど、気楽ではないかも知れないね」

 苦笑いを浮かべつつ、彼はそう言った。狼愛は小さく頷き、彼の方へと目を遣る。


 その時だった。

「狐火軍のガキだ!」

 突如、物陰から叫び声が聞こえてきた。翔太たちはすぐに敵兵に取り囲まれ、銃口を向けられてしまった。

「待って欲しい。僕たちに戦意はない」

 翔太はそう伝えたが、敵勢が聞く耳を持つ様子はない。彼らは光線銃を構えたまま、じりじりと彼の方に詰め寄っていく。狼愛は光線銃を手に取り、か細い声で呟く。

「戦闘開始」

 冷静かつ的確な判断だ。彼女は、相手が説得に応じるような手合いではないことをよく理解していた。翔太は息を呑み、ナイフを振りかざす。彼の俊敏な挙動に翻弄され、敵勢は発砲する機会を逃している現状だ。


 しかし彼の戦う目的は、敵を殲滅することではない。

「隙あり!」

 敵兵のうちの一人が、狼愛の脇腹を撃ち貫いた。

「狼愛!」

 翔太はすぐに彼女の方へと駆け寄ろうとした。直後、敵兵は三人がかりで彼の身を拘束した。彼の目の前で、残る兵士たちが狼愛の身を狙っていく。狼愛は必死に光線の動きを読みつつ、持参した光線銃で応戦していく。それでも彼女の戦闘能力には限界がある。彼女の身は、徐々に傷つけられていく。

「やめろ! 狼愛を撃つな!」

 翔太は敵兵の腕を振りほどき、前方へと飛び出した。彼は狼愛を突き飛ばし、敵陣から放たれるレーザー光線を一身に浴びた。鮮血の滴る肉体を奮い立たせ、翔太はレーザー光線を発射していく。眼前の兵士は次々と被弾し、その場に崩れ落ちていく。その最中にも、翔太は頭を悩ませていた。

「本当は、殺したくなんか……ないのに……」

 それでも狼愛を守るため、彼は戦わざるを得ない。結局、彼はその場にいる全ての敵を狙撃し、力尽きたように地に膝を突いた。

「ぜぇ……ぜぇ……僕は、人殺し……だ……」

 無論、彼はあくまでも戦争に巻き込まれた身だ。それでも己の手を汚すことを厭い、彼は呼吸を荒げている。そんな彼の肩を叩き、狼愛は冷静な提案をする。

「スカイネストに戻ろう。この傷で無人島を生き延びるのは、現実的ではない」

 彼女の言い分はもっともだ。翔太は満身創痍の狼愛を背負い、メタルコメットを停めた海岸へと向かった。



 そこで彼らが目にした光景は、衝撃的なものだった。

「酷い……」

 こともあろうに、メタルコメットはすでに何らかの攻撃を受け、大破していた。装甲が剥がれ落ちた箇所からは基盤や導線がむき出しになっており、機体はとても飛べそうな状態になかった。

「ものは試しだよ、狼愛。乗って」

 一先ず、翔太は試しにメタルコメットを動かしてみることにした。彼の指示に従い、狼愛はメタルコメットのコックピットに飛び乗る。彼女に続き、翔太も機体に搭乗し、操縦桿やレバーを無作為に動かしていく。

「動け! 動いてよ!」

 しかし、メタルコメットが動き出す様子はない。二人は完全に、無人島に取り残されてしまった。それでも狼愛は希望を捨てていない。

「この島には、敵兵がいた。少なからず、狐火軍がここをマークしている可能性は高いと見て良いと思う。助けが来るまで、気長に待とう」

 今はそうするのが最善だろう。

「そうだね、狼愛」

 翔太は納得し、コックピットから飛び降りた。全身に重傷を負っている状態で無人島に取り残されるのは心許ないが、今の彼らには現状を受け入れることしか出来ない。

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