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「本当はブルーシートが良いけど、無いよりはマシだよね」
何やら彼は、ピクニックの準備を進めているようだ。
やがて二人は支度を終え、メタルコメットに搭乗した。翔太はメタルコメットを離陸させ、なるべく遠くへと向かう。彼らの目指す先は、発信機が機能しない無人島だ。
「狼愛。これから、楽しいことをいっぱいしていこう。君にはきっと、笑顔が似合うはずだよ」
翔太はそう言い放ち、小さな離島に着陸した。
彼らの到着した場所では、人工物と思しきものがまるで見当たらなかった。そこは豊かな自然に囲まれた正真正銘の無人島だ。一先ず、二人は辺りを散策し、腰を降ろせる場所を探した。翔太たちが森林を突き進んでいくと、そこには清らかな水の溜まった泉があった。翔太はその畔に腰を降ろし、すぐ真横の岩から湧き出ている水を両手ですくった。彼はそれを一気に飲み干し、屈託のない笑みを浮かべる。
「うん、ここの水は飲めるね」
そう言った彼に続き、狼愛も湧き水を飲んだ。彼女は依然として表情を変えないが、黙々と水を飲み続けている。少なくとも、この水が飲用に適していることは彼女に伝わっているようだ。
続いて、翔太は布団のシーツを地面に広げた。彼の持ち寄ったバスケットからは、何枚かのサンドウィッチが顔を覗かせている。狼愛はしばし首を傾げ、おもむろに翔太の手を握った。
「狼愛……?」
彼女の突然の行動に、翔太は怪訝な顔をした。狼愛は彼の顔を覗き込み、無表情のまま訊ねる。
「こういうことがしたかったのでは?」
翔太は返答に困った。この時、彼は自分自身の心を疑っていた。彼の脳裏を過るは、架神の言葉だ。
「感情など知らないまま死ねた方が、狼愛は幸せだ。ICとして生まれた彼女にとっての、唯一の救い……それは悲しみを抱かないことだと思わないか?」
「それはお前のエゴだ。絶対にやめた方が良い」
――内心、翔太は見返りを求めていた可能性がある。その事実は、彼自身を悩ませた。翔太は愛想笑いを浮かべ、こう語る。
「僕は、ちゃんと狼愛の気持ちと向き合いたい。狼愛が僕を好きになってくれるまで、僕はそういうことを望まない」
それが彼の出した答えだ。狼愛はゆっくりと手を離し、彼の真意を問う。
「私には貴方がわからない。それなら今は、どうしたいの?」
無論、それは翔太自身にもわからないことだ。彼は今、彼女のことについて大いに悩んでいる身だ。架神の言葉に苦しめられる中、彼は必死に言葉を紡ぐ。
「僕にも、わからない。自分がどうしたいのか、どうすれば狼愛が幸せになれるのか……何もかもがわからない。とりあえず今は、ピクニックを楽しもう」
さっそく、彼はバスケットからサンドウィッチを取り出した。それを手渡された狼愛は、顔色一つ変えずにパンに挟まる具材を見つめている。そんな彼女に微笑みかけ、翔太は自分の分のサンドウィッチも取り出した。
「食べてごらん、狼愛。美味しいよ」
「美味しい……?」
「ほら、こうやってかじりつくんだよ」
彼は眼前のサンドウィッチに食らいつき、手本を見せた。狼愛も両手で己の分のサンドウィッチを掴み、一気にかじりつく。翔太はバスケットの奥底にあるインスタントカメラを手に取り、それを狼愛に見せつけた。
「これは……?」
「今日の思い出を残しておこうと思ってね。一緒に撮ろう」
彼はそう言うと、狼愛に肩を寄せた。翔太がシャッターを切った直後、インスタントカメラからは、口の周りにマスタードのついた二人の写真が印刷された。
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