訓練
そんな彼の横に立っていたのは、一人の短髪の男である。
「さっそく、シミュレーションを行う。ついてこい」
男は言った。無論、突然誘拐された翔太は困惑しており、とても現状を呑み込める状態ではない。
「君は一体誰だ! 僕をどうするつもりだ!」
「私は
「機龍? 僕を戦争に巻き込む気か!」
思わず憤った翔太は、すぐに眼前の男の胸倉を掴んだ。しかし正和は冷静な表情のまま、彼を真っすぐと睨みつける。
「私を黙らせたところで、君に選択の余地はない。これは私の取り決めではなく、軍の取り決めなのだ」
「僕はまだ十三歳なのに、兵役? どうなってるんだ、この国は!」
「杠葉翔太。君は消耗品なんだ。君は、この国を守るために生まれてきたのだ。さあ、私についてきたまえ!」
「……いつか必ず、脱走するから」
翔太はため息をつき、正和を降ろした。正和は彼を連れ、トレーニング室に案内した。
この日、翔太は初めてコックピットを触った。彼の目の前にあるモニターには、無数の機体が飛び交うシミュレーション画面が映し出されている。彼はすぐに操縦を覚え、襲い来る敵を淡々と狙撃していった。敵機の攻撃も難なくかわし、翔太は類稀なる素質を見せていく。一機、また一機と、彼は戦闘機を撃ち落としていく。己の操縦する機械の龍に数多のレーザー光線が降り注ぐも、彼はその全てを掻い潜る。敵の操縦する機龍も、翔太の攻撃により着実に損傷してきている。その様はさながら、プロゲーマーのようでもあった。
その様を見ていたのは、正和だけではない。やがて翔太が全ての敵機を撃破するや否や、一人の少年がその場に駆け寄ってきた。
「スゲェ! アンタ、スコアがカンストしてるじゃねぇか!」
そう言い放った少年は、妙に興奮している様子だった。一方で、翔太はいまだに運命を受け入れられずにいる。
「そんなことはどうでも良い。僕は、軍隊なんかに入りたくない」
「そう言うなって! アンタだったら生き残れそうだし、その力を活かさねぇのはもったいねぇだろ!」
「人の命を奪うことに活かす力に、一体なんの価値がある」
彼は呆れていた。彼の酷く冷めた態度とは裏腹に、周囲の子供たちは一人を除いて全員熱くなっている。
「お前、名前は?」
「このシミュレーター、超ムズイんだぞ!」
「こりゃ、あの
トレーニング室は賑わっている。そんな中、ただ一人の銀髪の少女だけが黙々とシミュレーションに集中している。騒がしい部屋の中、正和は怒りの交じった声を張り上げる。
「静かにしたまえ! 君たちも、トレーニングに集中するのだ!」
彼の怒号により、辺りはすぐに静まった。トレーニングを再開する翔太に対し、彼はある使命を言い渡す。
「杠葉翔太。今日から君には、正式に我が軍の一員になってもらう」
それは翔太にとって、あまりにも理不尽な通告であった。
「嫌だ! 僕は誰の命も奪いたくない!」
「君の理想は美しいが、そんなものは戦場ではなんの意味も持たない。誰も戦争を好みはしないが、傷つけ合うことでしか勝ち取れない世界があるのだ」
「仮にそうであったとしても、僕がそれに巻き込まれて良い理由なんかない!」
彼は必死に反論を繰り返した。それでも彼の言葉は、正和の胸には響かなかった。
「国家の死活問題を、個人の掲げる道徳で無下に出来るものか」
正和はそう言い残し、その場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます