第6話 「エルフと幼女に囲まれてご満悦のアルティメットニート」(異世界最高ww)


 時が止まった様な表情で、エリーちゃんはそろそろと俺に歩み寄って来て言った。


「え……ヒートLv1って……言ってなかった?」

「あ、ひゃいい」

「ヒートLv1って……精々指先から小さな火を飛ばす程度の魔法なんだけど!」

「あの、これしか出来ないみたいで……あの」

「ちょっと貴方! ステータス見せて!」


 え、何か変な事しちゃったの俺? 

 怒っている様にも見えるエリーちゃんから、ステータス開示の要求をされ、俺は縮こまりながらそれを承諾する。

 直ぐに表示された電子画面を覗き込んだエリーちゃんは、瞬きするのも忘れて呟いていく。


「ケインLv1……魔力…………10000ッ!?」

「あの……え、え……」

「ちょっと何なのよこれ!? 貴方Lv1のFランク冒険者でしょう!?」

「え、ごめんなさ……ぁ」

「この馬鹿げたステータスは何なのよ!? Sランクの大魔道士でも精々5000って所なのよ!?」


 ――ピリーン。


 そこで祝福する様なファンファーレが鳴る。


『《ケイン》経験値58000獲得。レベルアップ……レベルアップ……レベルアップ……レベルアップ……』


 それを何時までも繰り返し続け、最期にこう教えられた。


『Lv1→Lv53』


呆然としたエリーちゃんが、俺のステータスを確認する。俺はされるがまま泣きべそをかいていた。


《ケイン》 Lv53 F

ヒューマン

・HP 589

・攻撃力 183

・防御力 220

・素早さ 371

・MP 5800

・魔力 63800

・魔力適正 【火】

・成長性 0

《ヒートLv1》


「魔力……ろくま……ろく、ろくろくろく……」

「63800」


 そう俺が呟くと、エリーちゃんは飛び上がって頭をフラつかせた。


「魔力63800!? 貴方、あなあなた、何者にゃのよぉ!!」


 赤らめた顔で気を動転させるエリーちゃん。何か噛んでたけど、余りに可愛くってニヤケ顔になる。それに、本当にあのどストライクJKにそっくりだぁ。幸せ。


「何笑ってるのよぉ! もぉ!!」


「ミギィ……」


 俺の腕の中でサラマンダーがか弱い声を出した。


「え、何その子……貴方のペッ……え!!!?」

「うん、何か懐かれてて、仲間なのは確かだと思うんだけど……」

「サラマンダー!!? 伝説の大精霊の子どもじゃないのその子!!」


 またエリーちゃんが驚いてる。ビックリした顔がとても可愛らしいなぁ。

 え、ていうかやっぱりサラマンダーって珍しいの?


「神話の生物よ! 本当に居たなんて……あぁもう、頭がおかしくなりそう。何なのよ貴方達」

「凄く弱ってるみたいなんだ……さっきも俺を守ってくれて」


 サラマンダーを覗き込んだエリーちゃんは、少し考えてから俺に提案する。


「確かサラマンダーって火を食べるって聞いた事が」

「え! 良かった、それなら……! ヒートLv1!」

「ちょっと!! 貴方の馬鹿げた火力を打ち込んだらその子消し飛んじゃうんじゃ!?」

「え?」


 俺はさっきのと同じ波動砲を、サラマンダーの口に向かって既に発動させていた。


「きゃあああ!! グロいグロいグロい! やめてよケイン!!」

「あぁあ! 止まれ、止まれ止まれぇ!!」


「ミギィ!!」


 炎の中から、腹をパンパンに膨らませたサラマンダーが出て来る。何だかニッコリしていて、旨かったんだなと思った。


 そしてサラマンダーがLvアップする。


『《???》Lv1→Lv38』


 そして俺の電子画面に表示された次の文字は。


『《???》を進化させますか?』


 思わずYESを選択すると、サラマンダーは光に包まれていく。

 エリーちゃんはまた騒ぎ立てながら俺の背に隠れた。


「うわわあ、大っきなドラゴンとかになるんじゃ……ちゃんと言う事聞くの? 食べられちゃうんじゃ、あわわわ」


 そんなエリーちゃんの予想は大きく外れる事になる。


 そこに居たのは、赤い角を生やした全裸の幼女だったのだ。


「ミィ!」


 そして愛らしい表情で微笑むと、俺の胸に擦り寄って来ていた。

 訳が分からずに俺も困惑する。


「え、ええ、サラマン……」

「ご主人……」

「え、喋った!?」

「うん、喋った!」

「喋れたのか、サラマンダー?」

「今はね! あとサラマンダーは種族!」


 頬を膨らませた幼女が、俺の頬をつねる。


「名前付けて!」

「名前?」

「うん! ウチはご主人のペットなんだから、ご主人が名前決める!」


 幼女をペットにするとは……なんか聞こえがその……。


「早く! ミィ〜〜!」


 急かされた俺は頬を引っ張られるのが堪らず、とっさにこう口走った。


「ミィ子!」

「ミィ子!? それウチの名前!? やった〜ミィ子ミィ子! ミィ〜〜!」


 ミィ子が口から炎を点に向かって吐いた。喜びの表現らしいが、エリーちゃんはその熱に驚いて腰を抜かしている。


「ミィ子! 凄いぞそんなに強そうな火が吹ける様になったのか?」

「うん! ヒートガLv3! もう覚えちゃった!」

「ええ!? ヒートガ!?」

「うん炎の上級魔法! でもね、でもミィ子、ご主人の炎を食べたら、もっと強い火が吹ける様な気がするの〜! ご主人の火だーいすき!」


 四つん這いのまま、エリーちゃんが俺のズボンの裾を掴む。


「ね、ねぇケイン……その子、どうするの? まさかそんな危険な精霊を村に連れて帰るつもり?」

「え……そりゃあまぁ」


 もっとも村が何処にあるのかも知らないし、金も寝床も無いんだが……。


「あ、危ないわよ! その子が今みたいに火を吹いたら、村ごと焼け野原よ!? それ位凄い魔力だったわ!」

「大丈夫だと思うけど……なぁミィ子」

「ねぇご主人! この女、食べていい!?」


 ビクリとしたエリーが飛び上がって俺の背後に隠れる。するとミィ子がまた膨れ始めた。


「ご主人に引っ付くな! このエルフめ!」

「ひぃぃ!! 助けてケイン! 私食べられちゃう!」


 前後から揉みくちゃにされているというのに……

 何故だろう……今俺は、史上の喜びを感じている。

 まるで憧れのラブコメアニメの主人公になったみたいだ……。

 ありがとう神様。結構分かってんじゃん。グッドラック。


 少し落ち着いて来ると、息を切らしたエリーちゃんが俺に話し掛ける。


「ケイン。その……さっきステータス見てて気になる所があったんだけど」

「え、なにまた魔力の事?」

「ううん、違うの」


 まさか、まだチート能力が隠されてるのか? うひひ、なんだろう。


 するとエリーちゃんは、俺の表示したステータス画面を指で示す。ミィ子も俺の頭の上から覗いていた。


「こんなにレベルが上がったのに、スキルがヒートLv1しか無いよ? 普通他属性の魔法だったり、少なくともレベルアップしたりするんだけど……」

「あ……ぁいや、でも、火力は充分に出てるみたいだし」

「あの言い難いんだけど……ギルドではね、魔法やスキルの熟練度でランクが決定されるの。ほら、ヒートLv10より、ヒートラLv1のが強いし、ステータスは皆開示したくないから……スキルの数と熟練度が評価の基準として決まってるの」

「え、つまりそれって」

「うん、ケインは多分ランクF」

「あ……」


 しばらく沈黙してから、思わず俺は空に向かって叫んでいた。


「また落ちこぼれかよ! ちくしょおお!」


 ミィ子は主の気も知らないでケタケタと笑った。


「私ヒートガLv3! ミィ〜〜!!」

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