第5話 「初級魔法を覚えたアルティメットニート」(俺チートすぎwww)


 終わった……俺まだLv1なんだが? メ○しか覚えてないんだが? 

 しかも名前的にダンジョンボスだろこいつ……もっとこう、スライムとか、

 ていうかこの野郎、Lv1の冒険者のスタート地点にいきなりボス出現てどういうゲームバランスだよクソが!


「ウガぁあああ!」


 俺が怯えきっているのに構わずに、ゴブリンキングは全力で棍棒を振り下ろしてきた。


 あ、ヤバ……死んだ



 ――――ドッゴォおおおん!!



「あれ……? ん?」

「ギィ…………ミ……」

「サラマンダー!! なんで!」


 サラマンダーが小さな体で俺にタックルして、身代わりになっていた。


「なんで俺の為に……さっき、会ったばかりなのに……」

「ミ……ィイ……」


 キングゴブリンは、地に沈んでピクピクしているサラマンダーにまた棍棒を振り上げていく。


 ――見知らぬ女子高生を助ける為に死んだ俺。

 こいつの姿が俺に重なった

 俺はそのついでに死んじゃったけど……


「くそおお!!」


 何故だろう、俺はこの子を殺されたくない!


 俺は気付いたら、その身をキングゴブリンの前に晒していた。両手を広げて、サラマンダーを守る様に。


「ゴォオオオ!!」


 落ちてくる大木を見上げて俺は固く目を瞑った。



 ――ギャギィン!!



「え?」


 ズドォンと俺の隣に真っ二つにされた棍棒が落ちて来て、驚いて飛び上がる。

 そこで遠くからこちらに掛けて来る足音に気付いた。


「ウィンドラLv8!」


 木々の間から風に乗って飛んできた少女が、掌を前に向ける。するとそこに緑色の魔法陣が浮かび、鋭い風の刃がキングゴブリンを切り裂く。


「グギぃぁあ!」


 切り刻まれて出血したゴブリンが、割れた棍棒を捨てて後退する。


「え、なんでこんな所に他の冒険者がいるのよ!?」


 飛来して来た彼女の姿に、俺は衝撃を受けた。


「お、おみ足JKッ!!?」

「はぁ? 貴方誰、どっかで会ったかな……初めましてでしょう?」


 彼女は、トラックにダイビングする前に見た美少女に瓜二つだった。

 いや他人の空似かも知れ無い、あの時も横顔をチラっと覗き見ただけだし。


 だが俺はその女の子の特徴的な耳を凝視する。


 ――どちらにしても彼女は、俺が心から待ち続けた存在である事は確かだった。


 華奢な体に絹の様な白い肌、背には緑の透けた羽がある、豊満な体に……そして何より耳が……尖っている!

 つまり!

 俺は即座に少女の情報を見る。


《エリー》Lv68 S

 エルフ


「エルフきたぁあwwww!!」


 ゲームの中でしか見た事の無い幻の少女に、俺は一瞬でメロメロになる。


 しかも、え、なんで? なんであの美少女JKにそっくりなの!? うっひょおお!

 今の俺なら、この超絶高嶺の花にもワンちゃん……ぐへへw


 するとエルフのエリーちゃんは、大きなお目々で俺を凝視した。


「ランクF!? Lv1の冒険者がなんでこんな最高難度のダンジョンに居るの!」


 ランクF? 

 それってもしかしてLvの横に表示されてるアルファベットの事だろうか? そういう事なら、俺と違ってエリーちゃんはSランクらしい。


「ウガァァアオ!!」

「うわぁ!! まだキングゴブリン生きてるじゃん!」


 振り返ると、血だらけになったままキングゴブリンが雄叫びを上げていた。体が赤く変化していって、まさに怒りまくってるみたいだ。


「ちょっと! 間に合わない! 何か魔法使って時間を稼いで!」


 エリーちゃんが遠くからそんな事を言う。対してキングゴブリンは俺の目と鼻の先に居た。


「魔法って……ヒートLv1しか無いんだけど!」

「はぁっ!? ヒートLv1!? それ子どもの使う初級魔法よ! 貴方本当にどうやってここまで来たのよ!?」


 俺は必死の形相でキングゴブリンに向けて掌を向ける。


「あ、あの……魔法ってどうやって使うの?」

「ゴァァァ!!」


 怒り狂ったゴブリンが、棒立ちになった俺に拳を振り下ろしてきた。


 だがそこで、何処かから火の玉が飛んでいってキングゴブリンに命中する。


「ミギィ……!!」

「え、サラマンダー!?」

「ウッギャアア!!」


 ボロボロの体で立ち上がったサラマンダーが、口から火の玉を吐いてキングゴブリンの視界を奪う。

 しかし直ぐに炎を振り払ったキングゴブリンは、ジロリとサラマンダーを睨んだ。


「ヤバい……っ! 避けろサラマンダー!」



 ――――ドガァァああっ!!!



「――ッィギ!」


 キングゴブリンの攻撃をまともに喰らい、跳ね上がったサラマンダー。


「ウィンドラLv8!!」


 エリーちゃんが風魔法をキングゴブリンに放つ。

 しかし――


「フンがぁ!」


 キングゴブリンはそれを簡単に叩き落としてしまった。


「うっそ! あぁもう、二度は通じないって訳、この化物が!」


 キングゴブリンがまた俺に標準を定める。

 俺はボロボロのサラマンダーを抱きながら、恐ろしくなってガタガタと震えた。


「ちょっと貴方!!」


 そんな俺を叱りつけるみたいに、エリーちゃんの可愛い声が俺の耳に飛び込んで来た。


「掌を前に!」

「へ!? あ、へ……はい!」

「炎を意識して! 技の名前を叫ぶ!」

「へ、あ……」

「早く! ヒートLv1でも何もしないよりはマシよ!」

「ひゃぃい! ヒートLv1!!」


 レクチャー通りに俺は死にそうな顔で技の名を告げる。

 すると掌に赤い魔法陣が浮かんだ。


「もう一回! ちゃんと強く炎を意識するの!」

「あぃい! ひ、ヒートLv1!!」




 ――――次の瞬間だった。


 それは余りにも予想外の出来事だった。エリーちゃんも、そして勿論俺も、しばらく放心して動けなくなる程のインパクトだった。


 ――ゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 もの凄く巨大な灼熱しゃくねつの波動砲が、俺の掌から打ち出されていたのだ。


「ギャィアアア………………」


 それは丸ごとキングゴブリンの巨体を飲み込み、そのまま真っ直ぐに森を焼いて地面をえぐっていった。


「……ぁ、あれ?」


 跡形も無くなったキングゴブリン。自分から解き放たれた魔力の衝撃に、俺は思わずヘタりこんだ。

 そして間髪入れずにこう囁き漏らす――


「俺、何かやっちゃいました??」

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