第2話 「とりあえず2話で死ぬアルティメットニート」(俺勇敢すぎぃw)

 

 木曜日、時刻は14時。

 つまり平日の真っ昼間。

 ニートゴールデンタイム。

 お日様の下で、病的に肌の白い男がヒソヒソと歩いている。


 ――そう、俺だ。


 大学時代のチェックシャツが、少し太ったせいでパツンパツンになって腹が出ている。

 俺の長髪は風呂に入ってないせいでベタベタなので、バンダナを巻いて隠していた。


 おい大丈夫か? タイムスリップして来たオタクみたいになって無いか?


 ちなみに明確な目的は無い。

 あるとすれば、この自堕落な生活に終止符を打つキッカケを待っているとでも言おうか……。

 勇気を出して外に出たんだ、きっと何かあるだろう。

 そうじゃなきゃ、こんなに勇気を出したっていうのに不公平だ。


「ん? お、おっ?」


 早速、前方に女子高生のおみ足発見!

 なんでこんな真っ昼間に公園を歩いているんだ?


 し・か・も!


 超俺好みの黒髪清楚系美少女じゃねぇか!


 俺はゲームで培ったステルス性能を遺憾なく発揮しながら彼女の後をつけていった。



 しばらく尾行して気付いた事だが……彼女はどうやら宛もなく歩いている? ぽい。しかもなんか……泣いてる。


 あの子も学校で虐められてたりするのだろうか? いや俺も学生時代、似たような事をしていた覚えがあったからそう思うんだけど。


 可愛過ぎる女子は嫉妬で虐めの対象になるって言うしな……

 俺もまさか、イケメン過ぎたから…………?


「……」


 いや、どう考えてもそんな訳は無かった。

 


 どうするか……声を掛けてやるべきか? あの子の悩みを聞いてやりたい。

 いや、でもこんなデブオタに話し掛けられたら気持ち悪いだろう。それに数年間ろくに生身の人間と喋ってないし会話に自信がない。

『ww』って現実ではどうやって発音するんだっけww?


 沈んだ表情をした彼女が、公園を出て車の行き交う大通りへと向かっていく。


 待て待て待て、ここで怯んだら何も変わらないぞ拓郎! 美少女が向こうから話し掛けて来るとでも思っているのか? それはアニメかゲームの中だけだろう? 俺は現実と二次元の区別をつけられているイケてる男だ。


「……」


 ……ワンチャン、あるかも知れない。

 ゲスな考えが俺の頭を過ぎっていく。


 だってあの子は傷心モードだろ? 俺だったらどんなブサイクに話し掛けられても嬉しいし、惚れちゃうかも。

 うん、そうだ。そうかも……少なくとも当時の俺はそうだった。


 折角勇気を出して外に出て来たんだ……うん、変えよう、俺はこの大冒険(外出)で人生を変えてやるんだ!


 俺には一生縁のないレベルの美少女だが……やってみる価値はあるかもしれない。


 心臓がバクバクと鳴り始める。

 そうして俺は大胆にも制服姿に近づいていった。


 で、でもどうやって話し掛けよう? 


 えっとエロゲでは……


 いやいや待て、ここは現実だ! そんなものと現実を混同したら俺はいよいよ終わりだぞ?


 現実世界に居るイケメンを参考にするんだ。こういう時イケメンだったらどう話し掛けるんだ? ……イケメンイケメン……ええと、なかなか出て来ない、イケメンだったら〜っ!!


「――え?」


 彼女との距離が目前にまで差し掛かった時、俺は思わずそんな声を上げていた。


 歩道に居た彼女が、向かいから来る大型トラックに向かって飛び出していったのだ。


 ふわりと飛んで、車道に降り立つ。

 トラックは猛スピードで飛び込んで来る!


 ――え? ヤバいヤバいヤバいヤバい!!?


 頭の中が真っ白になった。ある意味望んでいたイベントが目の前で起こっているのだけど、その時になったら俺はどうすれば良いか分からなくなった。


「あ、あぶ……あぶな!」


 だけど、大好きなアニメのワンシーンを思い出した勇敢な俺は、華麗に車道へと飛び出しながら、こんな台詞を口走っていた。


「ちょww待てよぉぉ!!」


 ――――――


 自分にこんな度胸があるとは思わなかった。いや、現実逃避してアニメの真似をしてみただけなのかも知れない。



 こんな事をしたら、本当に死ぬなんて事すら忘れて……。



 俺は彼女を突き飛ばした。そして数秒後、俺に巨大な鉄の塊が突っ込んだ。

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