第八章

第十一夜 「恐ろしい里」

 現在時刻は午前零時。今宵も始まりました、冥界ラジヲ。毎週末土曜日、午前零時に始まりまして、ツラツラとね、リスナーの皆さまに怪奇ホラーや都市伝説といった巷の話題をお届けしております。


 お送りしますのはお馴染みサンゲキジゴローと、

「アシスタントのヒキザキカナメです!」


 はい、元気に自己紹介ありがとね。ところで皆、テレビの特番観てくれたかな? 江戸城にまつわる怪談の特集だったけど、ロケ中にも色々とね、まぁ、色々とあったよねぇ、カナメ嬢。

「あった。ありましたね、ジゴローさん。色々と。」

 そうなのよ、色々あったんだけどもそっちは追々ね、整理してから皆に聞いてもらおうかなと思ってるんでお楽しみに。

「すっごく怖い目に遭ったんだよ、みんなー! でも、転んでもタダじゃ起きないジゴローさんだから出来ることだよね、アレを怪談話に仕上げてくれるんだって。皆楽しみにしてて!」

 転んでもは余計だよ、お嬢。ついでに例の掛け軸の続報なんかもね、解った分だけはどんどんこの番組で発表していくよ。それじゃ、今日のお便り紹介、頼むね。

「はーい、今日のお便りはPN、大坂の落ち武者さんからでーす。」

 おっ、なんかタイムリーだね。じゃ、読み上げるよ。


『こんばんわ、ジゴローさん、カナメちゃん。大阪城のロケ、お疲れ様でした。この話は僕が人づてで聞いた都市伝説なんですけど、不思議な村があるんだそうです。よくある村系の怪談話だとは思いますが、とにかく聞いてください。』


 おっ、出たね、村系。過疎地の山村が舞台になる怪談話は、映画化された犬鳴村とかが有名だね。現実にも津山事件とか、新和村事件とかの猟奇事件が起きてるから、怖い話が起きる場所としては、あながち的外れな舞台設定じゃないんだよねぇ。


『Aさんがその村に行ったのは、友人のツテだったそうです。史跡を訪ねるフィールドワークの一環でとある山村に滞在することになったそうですが、その友人が、時期が悪いとしきりと口にすることを不思議に思っていたそうです。

 Aさんは出来ればウィークリーマンションなどを借りて、長期の滞在調査がしたかったらしいんですが、よそ者を歓迎しない土地柄らしく、そのような賃貸物件はおろか宿屋さえない閉鎖的な村だったそうです。Aさんは友人の実家にお世話になり、頼み込んで三日間だけ滞在が許されたそうです。


 実家の方や村の世話役の人などが、皆口々にAさんに念押しすることが一つありました。お囃子が聞こえてきたら、家の中に居てはいけない、と。玄関前に出てくるだけでも良い、祭りに来るのが億劫ならそこらをうろついていてもいい、ただ家の中にだけは居てくれるなと念押しされたそうです。家にいると連れていかれることがあるから、と。

 Aさんは不思議に思い、何が連れに来るのかと尋ねたらしいのですが、友人もその家族も何が来るのかは知らないと言います。村を尋ねて回ったそうですが、ワケを知っている人は一人もいなかったようです。昔から、この村ではそう言い伝えられていて、戦前ならば連れて行かれた者の名前も知られていたけれど、いつしかとんと聞かなくなったのだ、という話のようです。


 ただの習わしだからということで無理にとは言わないけれど、家に居て何かあっても責任は持てないから出来たら祭りに参加するなりして、習わしに従ってほしいとそう言われたようです。Aさんもフィールドワークで来たわけなので、祭りに参加させてもらえるなら大変有り難いと、その夜は家から出て過ごしたそうです。

 祭りの間、家々は風習に従ってすべての部屋の灯りを点けておくのだそうで、小高い丘の上にある神社の鳥居から見下ろすと、村のどこに家があるのかは一目瞭然だったそうです。戸締まりはしっかりしているんでしょうが、不用心ではないのかと少し心配になって眺めていた時に、Aさんは奇妙なモノを目撃したそうです。


 家から家へ、灯りに照らされた一軒の窓からその隣の家の窓へと、黒い人影が飛び移るように移動していくのが見えたそうです。何かを探している風にも、ただ物珍しくて覗いているだけのようにも見えたそうで、けれどひと通りの窓を覗くとその影はふいに消えてしまったそうです。

 Aさんは祭りの会場で友人を探し、今観たものの話をしたそうです。ところがその友人が言うには、それは違うのだそうで、連れていくヤツを追い払う為に家々を回っているだけだから問題ないと告げられたそうです。姿を見たこと自体が珍しいと驚かれたようです。


 村人達は皆、そのことを不思議とは思っていないようで、けれど騒ぎになってほしくはないので秘密にしているのだという話をされたそうです。どちらも年に一度、祭りの一日だけしか出てこないので気にしていないと友人も言っていたようです。

 とても不思議な話でAさんも詳細を知りたがったそうですが、発表などされては困ると、誰もが口を固く閉ざしてそれ以上のことは何も教えてくれなかったという話です。その後、Aさんはその村に移住しようかと今も真剣に悩んでいるんだそうです。


 ジゴローさんはどう感じましたか。僕は不思議だなぁと思いました。人間って、明らかおかしなことが起きていても、なんだかんだで慣れてしまうんですねぇ。』


 そうだね、その村ではもう当たり前のことになっちゃってるんだろうね。恐ろしいのは人攫いの怪異か、怪異に慣れてしまう村人か、て感じ? いや、面白い話をありがとう。『この話はそんなに怖くないと思うんですが、それでもステッカー貰えますか?』ということだけど、心配ないよ、ちゃんと送らせてもらうからね。


 それでは時間となりました。今夜はこのあたりで切り上げかな。おやすみー。

「じゃあねー、ばいばーい。」


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