第六夜 「人コワ」
現在時刻は午前零時。今宵も始まりました、冥界ラジヲ。毎週末土曜日、午前零時に始まりまして、ツラツラとね、リスナーの皆さまに怪奇ホラーや都市伝説といった巷の話題をお届けしております。
お送りしますのはお馴染みサンゲキジゴローと、
「みんな、お久しっ! アシスタントのヒキザキカナメでーす!」
相変わらず元気だね、こんな真夜中だってのにね、羨ましいね。おじさんはもう息も絶え絶えですよ、
「それはジゴローさんが今日、呑みすぎたからでしょ。スタッフに聞いたよ。」
スタッフー! 勝手に個人情報を拡散すんな!
……えー、気を取り直してね、今夜のネタは、これまたずいぶん久しぶりですの『人コワ』話ですよ。ここんとこガチ怪談と都市伝説ばっかりだったからね、初心に返って、やっぱり人間が一番コワいよね、というトコを紹介していきたいと思います。
メールくれたのはペンネーム、子ネズミねず男たん、たんとか自分で言うな。喋るこっちが恥ずかしくなるペンネームはそろそろ禁止にしちゃうよ、みんな。
えーとね、『はじめまして、ジゴローさん。』はじめましてぇ。
『かれこれ七、八年ほども前の話なんですが、これは当時ボクが某大学に通っていた頃に知り合って、しばらくツレになっていたヤバい友人の話です。』
大学生の頃はね、色んな人間と知り合うもんだからね、たまにはそういう危険人物っぽい毛色のヤツとかとも、お知り合いになったりするんだよね。解るわぁ~。
『ソイツは見た目、普通のヤツだったから付き合いだしたんです。喋るとちょっと妙な感じがしたんですが、そのくらいはよくあると思って当初気にしてはいませんでした。
けれど、喋り方だけでなく、どこがどうとは言いにくいんですが、変わってるなと思うことが時々ありました。
ある時、ソイツはいきなり走り出して飲料用の自販機までダッシュしました。どうしたのかと見ていると、備え付けのゴミ箱を漁り始めたんです。もちろん止めましたが。そうするとバツが悪そうな顔をして、片想いの相手がついさっきここでジュースを飲んだんだそうで、その紙コップを収集しようとしていた、と白状しました。』
「うわ、えっぐ! 気色悪いよ、それは!」
いきなり正面でデカい声だすのも禁止ね。耳がキーンってなった、耳が。
で、なに? カナメ嬢的にはやっぱ気色悪い?
俺、なんかちょっと可愛いなとか思っちゃったんだけど。
「可愛いくないですよ! 誰も見てないからつい、とか言うなら解るけど、友だちが傍にいるんですよ!? 大学のキャンパス内ってコトはですよ、他にも学生がいっぱいかも知れないってコトですよ? 絶対ヘンじゃないですか、ソイツ!」
あー、そっか。衆人環視にも関わらず、白昼堂々ゴミ漁りってのは確かになんかおかしいね。精神疾患でもあったのかもねぇ。とりあえず続き読むよ。
『ソイツはいわゆるストーカー気質ってヤツで、ボクが知り合った時には既に大学の先輩である某女子大生に付きまとっていました。はんなりした美人さんで、マドンナ的に密かな人気がある人でしたが、もう恋人もいるっていうのにお構いなしでした。
そういうヤツだったので、やっぱりというかで事件がありました。
危惧していて然るべきだったんですが、ある日、ソイツがニヤニヤして、ボクに自慢げに言うんです。今、彼女と一緒に過ごしてるって。どういうことかと聞き返しますよね?
アイツはすぐ言い直して、彼女のことを影ながら見守ってるってことだと訂正しました。なんでも、日本を影から支配している、とある勢力が彼女に目をつけたんだとかで、護らないといけないと。なのに彼女は、とても危険なサイトを熱心に見ていたんだと熱弁しだしたんです。
パソコンの内容を見ていなければ知りようがないことをアイツは言いました。
ソイツと彼女には接点など無いように見えたんで、普通は知ることが出来ないそれらの情報をどうやって知ったのかが不思議でした。それで、ボクは調子を合わせるフリでなんとか聞き出したんです。
いつだったかこのラジオでも取りあげたことがありましたよね? フロッギングという、欧米でかなり問題になっていた犯罪行為のこと。
見知らぬ他人の家に侵入し、人がいる間は屋根裏に潜み、家人が留守にするとその間に好き放題して過ごす、とかいう話。それとそっくり同じ話をソイツはしました。
アイツは、彼女の家の屋根裏に潜んで生活していたと言うんです。
ボクが話を聞いた時には、ひと晩だけだと言っていました。侵入は容易かったけれど、日常的に出入りするのは難しいとも言っていました。海外と違い、日本は家屋が密集していて人の目が絶える時がないかららしいです。
それらの言い方を聞いていると、妙にリアルで、嘘を吐いているとは思えませんでした。恐らく本当に何日間かは、彼女の家に侵入していたんだと思います。
ずっと屋根裏に潜んでいたわけではなく、けれど何日間かは確実に彼女の部屋の屋根裏に居て、その寝顔を覗いていたりしたんだと思いました。
地域限定の都市伝説なんですが、当時流行っていた怪異の噂も、ソイツに言わせると日本を影で牛耳る連中が単発で仕掛けた罠なんだそうで、そのターゲットは彼女なんだそうです。そう信じ込んでいるようでした。
都市伝説では、とあるサイトの隠しページを見つけてしまった者は呪われる、とかいうんですが、だけどアイツが言うにはそれを見る者は最初から決まっていて、それはネットの中にそういう風にプログラムが流れているからなんだそうです。
パソコンを勝手に開けてパスワードを突破する為のスパイ器具も彼は購入したと言っていました。そんなモノが売っているなんてことも信じがたいのですが、トロイの木馬を目の前のパソコンに食わせるくらいはワケないと彼には笑われました。
何を言っているんだかよく解りませんよね? ボクも、よく解らないまま当時は聞いていました。よくある陰謀論者の陰謀論で、そういう人って聞く耳持たなかったりするじゃないですか。だから、そういうタイプの人間なんだろうと思ってました。
ただ、そういう人にありがちなこととして、ヘンに否定したり露骨に避けたりしたら急に敵認定されたりして、そうすると逆にこちらが被害に遭ったりもすると聞いていましたから、ボクとしてはあまり刺激しないよう、ちょっとずつ距離を置くようにして付き合っていたんです。
そんな感じだったので、彼とはいつしか疎遠になってしまい、大学を卒業する頃にはすっかり関係性もなくなっていました。彼の噂を次に聞いたのは、数年が経ち、就職も決まり、落ち着いた頃でした。
何が原因なのかはっきりしないんですが、彼は発狂して死んだと聞きました。これは確かなスジからの情報だとかで、どこのスジなのかは知りませんしいい加減に聞いていたんですが、とにかく、自分でも確認してみたところ、彼がもう亡くなってしまったということは、本当だったんです。
ただ、自殺にしては仰々しいほどの警察関係者が来たようで、それがまた噂になっていたようです。あまり本気にして聞いていなかった、当時のマドンナ宅へのフロッギング行為も、実は本当にやったことだったのかも知れません。
まったく見ず知らずの人間が、気付かないうちに自分の家の屋根裏に潜んで様子を窺っていることもあるんだと、そういう話です、これは。
彼にはポリシーがあって、信じていることがあって、話が通じないところがありました。そういう人間は他人や常識を軽視するんですよね。
彼が言うには、正しい行いをする者が正しいんだそうです。だから犯罪行為でも行えたんだと思います。
それからもう一つだけ。彼は発狂したと聞いた時に思ったんですが、ボクが出会った時の彼って、正気だったんでしょうか。ジゴローさんはこの話、どう思います?』
……どう思います? と聞かれましても。
「ジゴローさん、今、めちゃくちゃ困った顔してるよ、ねず男たん。」
そう言うけどさ、じゃあ、カナメ嬢はどう思うのよ、これ。てか、イロイロと混線してて、何が主題で何を怖がればいいんだか、さっぱり解んない。要点を絞りたい。
なに?
屋根裏に人が住んでるかも知れないよ~、てトコがひとつのポイントだよね、これ。
それから、その人って、いわゆる気持ちがイッちゃってる人かも知れないよ~、てトコが次のポイントですかね?
そう考えたら、めっちゃコワいな、これ。
「はーい、そろそろお時間が来てしまいましたっ。提供はジゴロー&ヒキザキカナメ。来週のこの時間にまたお会いしましょう! じゃねっ!」
あ、こら、勝手に締めんな(ブツッ BGM)
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