第五夜 「百鬼夜行」

 現在時刻は午前零時。今宵も始まりました、冥界ラジヲ。毎週末土曜日、午前零時に始まりまして、ツラツラとね、リスナーの皆さまに怪奇ホラーや都市伝説といった巷の話題をお届けしております。


 お送りしますのはお馴染みサンゲキジゴローと、マスコットキャラを気取るヒキザキカナメ嬢。そして先週に引き続き、今夜もスペゲスとしてユノノンとアマネ君が来てくれていまーす。


 三人とも、元気? あれから一週間経ったわけだけど。


「ジゴローさん、ユノね、ジゴローさんに質問があるの。」

「ちょっとぉ、ユノノン。まずご挨拶からでしょ、初めて聞く人だって居るかもなのに。皆さんこんばんわ。ダンザイアマネです、よろしくお願いします。」

「あー、そっか。ユノでーす。でね、ジゴローさん、質問があるの。いい?」

「自由だね、ユノノン。ヒキザキカナメでーす。」


 調子狂わされっぱなしだね、お二人さん。で、なに? ユノノン。


「あのね、京都のお土産ありがとうございますなの、それからステッカーもありがとうございます。ユノ、怖い話一生懸命考えたけど、作れなかったからすごく嬉しいです。」


 いや、番組の趣旨間違えないでね? ユノノン? まるまる作り話は困るからね? ウチは創作怪談を取り扱ってるとかは、表立っては言ってないからねー。リスナーの皆もそこんトコはよろしく頼むぜ? 空気読んでくれな?


「それです。ユノ、解んないんだけど、だから質問なのだけど、作り話じゃないと困るリスナーもいると思うのです、それでも作り話は絶対オッケーにならないですか?」


 いや、何言ってんのかわかんない。

 ちょっとお友達二人、どっちかちゃんと言い聞かせて。

 ほら、委員長、出番。


「は、はい。ほらユノノン、ジゴローさんマジで困っちゃってるじゃない。あのね、作り話ですって堂々と言わなきゃいいんだよ。黙っとけばいいコトもあるって社長も言ってるでしょ? どうしたのユノノン? 今日は特にヘンだよ?」

「ユノ、別にヘンじゃないです。いつもとおんなじです。」

「うん、いつもこんなモンじゃない?」

「カナメちゃん!」


 いやー、さすがの委員長も不思議少女ユノノンには形無しだね。


「すいません、ジゴローさん。後でちゃんと言い聞かせておきますから。」


 いいよ、いいよ、それじゃそろそろ本編に行くからね。これはね、俺が実家のある京都で取材した時に近所のおばちゃんから聞いた話だよ。奇しくもうちの寺で起きたらしい話だ。


『うちの曾爺さんが即身仏となった時のことなんだけど、修行自体はうちの寺じゃなくてもっと大きな、比叡山とかのお山で行われたそうなんだよね。過酷な断食修行の末に、それこそ何年もかけてミイラ化するように仕上げて、それから地中に埋まるんだけどさ。

 そうやって曾爺さんは無事に……いや、無事にってのもおかしいけど、まぁ、立派な即身仏になって出てきたらしいのよ。それでお山を下りてね、お弟子さんたちが数人で御輿に担いで、うちの寺まで運び入れたんだってさ。


 ところがだ、立派な即身仏になったはずのこの曾爺さん、死後に偉い上人になってお寺の本堂に安置もされたんだけど、その日の夜からさっそく怪異が始まったっていうんだ。

 爺さんが御輿で辿った道をさ、京の都からうちの寺まで続くその街道を、夜の夜中に練り歩く者達が出没するようになったって言うんだ。


 提灯を下げて、青い人魂だの鬼だののいわゆる百鬼夜行だね、これが爺さん到着の夜からずーっと続いたんだって。妖怪どもは行列を作って寺へ押しかけてきたんだが、どうやら中には入れない。やっぱり偉い法力のある仏様ってことで、寺の周囲の土塀より先へは進めなかったらしい。

 それで、いつしか怪異どもは夜中に行列作って寺までやってきて、そのまま明け方まで寺の周囲をぐーるぐると回りながら、歌い踊るようになったんだってさ。


 寺の周辺には家がかなり建っていたんだけど、その有り様があまりに恐ろしくて、次々に新しい家を建てては引っ越していってしまったそうだ。いつしか寺はぽつんと一軒家みたいな感じになって、周囲はほとんど田畑になり、長いこと都の外にある寺だと思われてたんだってさ。』


 今はもう普通にご近所は家が密集してるような土地だけどね。

 これほんとに曾爺さんの話なのかってトコはちょっと眉唾なんだけどさ、だって時代でいってもせいぜい明治大正あたりだよ? そんな時代に百鬼夜行なんて……たぶんさ、俺はこれ、もっと古い時代の話が混ざってるんだと思うんだよ。

 どっちにしろ、寺には何か曰くがあるってことに変わりはないんだけどさ。掛け軸にしても、写しじゃなくて本家本元の方に何かすごい秘密があるんだろうと思うし。そっちも順次、新しい情報が入り次第このラジヲで報告していくから。


 と、いうわけでうちの曾爺さんのお話でしたっ。

 ちょうどいい時間になったことだし、それじゃまた来週。


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