第四夜 「魔除け」
現在時刻は午前零時。今宵も始まりました、冥界ラジヲ。毎週末土曜日、午前零時に始まりまして、ツラツラとね、リスナーの皆さまに怪奇ホラーや都市伝説といった巷の話題をお届けしております。
お送りしますのはお馴染みサンゲキジゴローと、マスコットキャラを気取るヒキザキカナメ嬢。そして今夜はスペシャルゲスト、カナメちゃんのお友達二人も一緒に来てくれましたー。ノロイユノちゃんとダンザイアマネちゃんです。
「オカルト女子部三人組、ヒキザキカナメ!」
「ノロイユノだよ、」
「ダンザイアマネです。よろしくお願いします。」
いやもう、このまま三人セットで毎回来てくれてもいいけどねぇ。そう思うよね、どう、リスナーの皆? スタジオはいつになく華やかだよー。そんで今回は番組初の試みなんだけど、ティックトックの動画配信をね、彼女らのチャンネルなんだけどね、そっちには俺がゲスト出演しちゃいます。この後でね。よかったら観てね。
今日はまぁ、そういうワケなんで、後ほど彼女らの紹介なんかもね、やっていきたいと思います。じゃあ、今週のメールをね、読んでいきましょう。投稿者はマキマキさんです。実は関係者かも?なんていう噂もね、あったりしますよ。
では、読みます。『ジゴローくん、こんばんわ。』はい、こんばんわ。俺よりちょこっとだけ年上だそうです、マキマキさん。
『この話は知人から聞いたもので、実のところは半信半疑だったりもします。その知人は、また別の知人から聞いた話だとか言うので、もし眉唾なお話だったらごめんなさい。
番組特製のステッカーが魔除けとして使えるかも? とかいう噂があるんです。知ってましたか、ジゴローくん。』
いやぁ、初耳。まあね、新作のステッカーが出来た当時……確か二年前だったかな? その時にそんな効果が期待できるかもね、なんて話はした覚えがあるけども、まさか本当に効果があったなんて話は、今回初めて聞きましたわ。
『なんでも、あのステッカーを見た魔物はそれを剥がそうとするらしく、何匹出てきても先を争ってステッカーに群がるんだそうです。よほど嫌なモノなのかも知れませんね。
知人がその話を聞いたのは、同窓会の会場だったそうです。怪談話で大いに盛り上がっていて、その時に話が出たらしく、知人は自分も持っていたからすごく興味が湧いて、それでずっと片隅に残っていたんだそうです。結論を先に言えば、それで助かったんだとか。
それで、色んな話をしているうちに、彼らが卒業した学校にまつわる七不思議が話題に上ったそうです。不思議なことに舞台となるのは決まって旧校舎だそうで、皆改めて不思議がっていたようです。内容自体はありきたりなのに、どうしてだろうか、と。
そのうちに、酔いが手伝ったものか、誰かが行ってみようと言い出したようです。手を挙げたメンバーは旧友たちに知人を足した四人だそうです。
知人は、肝試しに向かう直前に、思いついてこのステッカーを車から持ち出し、ポケットに忍ばせたと言います。噂と同じように護って貰えるかも、と思ったようで。
その校舎は耐震構造など言われることもなかった昭和の初め頃に建てられたもので、鉄筋コンクリートの三階建て建築ではあるものの、壁面は風雨にさらされ真っ黒になり、煤けた様子はまるで廃墟のようだったそうです。
そんな状態だからなのか、危険を考慮してか、彼らが在学中の頃よりずっと立ち入り禁止になっていたそうです。
令和になった今現在も、どういう理由か長い間取り壊されることもなく、ずっと古めかしい佇まいを残し続けているのだそう。そんな、あまりにもうってつけ過ぎる建物だから、学校の七不思議もほとんどがこの旧校舎を舞台にしていたのだろう、と言い合ったのだそうです。
だいたいはありきたりな内容ばかりの七不思議ですが、この学校には本当に目撃されたとされる逸話がひとつだけあったそうです。それは紙切りババアという怪談話です。
旧校舎に入って階段を上がり、三階の奥にある昔の用具室の扉をノックすると、中からノックが返ってくる。中を覗くと白髪の老婆がいて、切り紙をしている。この老婆が振り向かないうちに扉を閉めて逃げないと、追いかけてくる。というものです。
知人たち四人は月明かりしかない旧校舎の廊下を進み、階段を登って三階に行き、本当に旧用具室の扉を開けてしまったんだそうです。驚くことに七不思議で語られる通りの、老婆の後ろ姿がそこにありました。
ぎょっとする四人が扉の前で突っ立っている間に、老婆はくるりと振り返ってしまったそうです。逃げるとか扉を閉めるとか以前の話で、老婆を観た瞬間に身体が固まって動けなかったと言っていました。
老婆の顔には、あるべきはずの両の目がありませんでした。ぽっかりと黒い虚ろが開いているばかりで、後から思えば、どんな輪郭や鼻や口の形をしていたのかも覚えていなかったんだそうです。
そして、七不思議のお話の通りに、老婆はうめき声とも叫び声ともつかぬ声をあげて、四人に向かってきました。金縛りが解けたのか、自力で振りほどいたのか、四人とも叫び声を上げてその場から逃げ出しました。誰かが扉を力任せにバーンと閉めると、間髪入れずに老婆がまたバーンと開ける音が廊下に響き渡ります。
転がるように廊下を全速力で駆ける四人の背後から、あの老婆が白髪を振り乱して追いすがってきたそうです。階段を駆け下り、廊下を走り抜け、玄関をくぐってグラウンドに出た四人は、後ろを振り向いてさらに悲鳴を上げました。老婆が校舎から飛び出してくる姿がはっきりと見えたそうです。
知人は、他の三人が車に乗り込む間に、ステッカーを校庭の門柱に貼り付けました。噂が本当なら、これが時間稼ぎをしてくれるはずで、藁にもすがる思いだったそうです。
知人も乗り込み、車がエンジンを吹かして猛スピードでその場を離れるまでの間、かの老婆は門柱にぶつかるように飛びついて、例のステッカーを必死に剥がそうと藻掻いていたそうです。
化け物がステッカーを剥がそうとしている間に逃げられる、その噂はどうやら本当のことだったと、この知人は申しておりました。
ちなみに、朝になって学校に確認しに向かったところ、ステッカーは誰かが剥がしてしまったらしく、切れ端だけが残っていたという話です。』
……おお怖っ。
いや、なに、そのババア。いや、お婆ちゃん。紙切りババア? 学校の怪談ってだいたい学校限定の気がするんだけど、その婆ちゃん、用具室どころか校庭まで出てくんの? 怖すぎない? え、ターボババアみたいに車の後ろも追いかけてきたり?
怖っ。
いつになくガチめの怪談でゾクゾクしたところで、今夜もお時間です。
引き続き、ステッカー怪談の別バージョンとか募集するよ。なんか元ネタのヤツとかもありそうだもんね。知ってるリスナーが居たらよろしく。
それからね、今夜はスペシャルゲストを迎えてのスペシャルナイトです。番組時間をちょこっとだけ延長してね、あとちょっとだけお付き合いお願いするね、リスナーの皆。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます