第6話 『七賢秘宝書』と六賢家門
王都には神殿があり、魔王がこの世界に降臨するたび聖女も時を同じくして神殿に現れる。魔王が死んで数年もすれば新たな魔王が再臨するらしく、この世界の長〜い歴史からすれば聖女不在はわずかな期間。
神官だけでなく王家も国民も聖女が王都にいるのを当たり前のように思っているけど、七つの秘宝のうち唯一宝石ではない『七賢秘宝書』を王家が管理することになったのは聖女の存在に理由があったようだ。
王家を含め七賢の力は現在ほぼ拮抗している。神力を宿した宝石がなくても王都には聖女降臨の場が存在するからだ。聖女はあたしが転移してきたあの場所に必ず現れ、その前触れとしてソフトクリーム……もとい神像がフルフル揺れるらしい。
聖女と神殿を抱えるだけでなく秘宝の宝石まで所有するとなるとその家門に力が偏り過ぎる。そのため秘宝の宝石周辺の土地は六賢の手に、そして聖女降臨の場のまわりを王都とし、王家が『七賢秘宝書』を管理することに決まったようだ。
ちなみに『七賢秘宝書』には六賢が所有する六つの宝石の秘めた力と発動方法が書かれていて、その内容は王家しか知らない。六賢が王家をのけ者にして勝手に神の力を使うことはできないようになっている。
さらに言うと、宝石に触れない理由が『七賢秘宝書』に記されていないのは、書物の所有者が他の秘宝に簡単に手出しできないようにするためではないか――とあたしは考えていた。
七賢家門すべてが協力しない限り神の力は手に入らない。そんな細工を神が施した。
いずれにせよ『七賢秘宝書』は神の力を使うための鍵。なぜそんな大事なものを図書館なんかに、と呆れたけど歴代王に罪はない。だって設定を考えたのは『お菓子な国のおかしな聖女様』の作者だから。
秘宝を隠したらほったらかしの王家と違って宝石を管理する六賢は秘宝を崇め奉っているようだった。それは王都における聖女並みに。
六賢家門は
マンガだからそんなもんかと思いつつ、情報収集が目的のあたしにとっては好都合。問題は身分を隠した今のあたしは平民学生で、六賢の子どもたちは名門貴族の令嬢令息だということ。安易に声をかけることもできないし、目立つようなことはしたくなかった。
とはいえ平民ミエルの学院生活は平穏そのものだ。
昼間は学院で大人しく地味な女学生を装い、夜中に学院寮を抜け出して六賢家門の王都邸宅に忍び込む。そんな生活は意外に性に合っている。
マンガの主要キャラであるカヌレ王太子は今日もイケメンオーラをキラキラ振りまいて女生徒を虜にしていた。そして婚約者のヌガティーヌは悪役令嬢っぷりを如何なく発揮している。
マンガでは聖女に嫉妬したヌガティーヌがお菓子に毒を仕込み、王太子が間違って口にしてしまう。聖女は聖なるお菓子の解毒作用で王太子を救い、ヌガティーヌと王太子は婚約破棄することになるのだけど、面倒なのでこの二人には極力近づかないようにしていた。
当たり前だけど、マンガの聖女みたいにカヌレ王太子と末永く幸せに暮らす気は毛頭ない。
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