第5話 聖女の副業は泥棒です
あたしが王立魔法学院に通う目的は、王太子でも青春でもなく学院内にある王立図書館だった。
王立図書館には隠し部屋があり、そこには秘宝に関する書物が眠っている。マンガではその書物を手に入れるために魔王が図書館襲撃を企てるのだけど、そうなる前にあたしがさっさと盗んでしまえばいい。
そんなこんなで始まった学生生活は思った以上に快適だった。
至れり尽くせりの神殿生活は裏を返せば朝から晩まで誰かがくっついてくるプライバシーゼロ生活。マカロン教主は学院寮にも護衛を付けようとしたけど、そんなことをしたらせっかく身分を隠した意味がない。護衛は不要だと証明するためにあたしは教主の前で聖女の力をコントロールしてみせた。
半年のあいだ何をしても制御できなかった聖女の力。それが突然思い通りになったのは秘宝を集めるという明確な目標ができたときからだった。不特定の誰かの願いを具現化するだけだったあたしの力は、意識すれば特定の相手の願いを叶え、かつあたし自身の願いもかなえられるようになった。
火水風土の魔法はお手のもの、空も飛べるし姿も消せる。変身できるし声も変えられる。聖女の御力マジ半端ない。なりふり構わず愛する人の元に帰りたい
秘宝で神の力を借りようとしてるのだから、神に対して不敬なことはできるだけ控えることにした。とりあえず神像をソフトクリームに変えてみたけど手も口もつけずに元に戻し、タイミング良く猫の足跡がついたのはご愛嬌。
マカロン教主のはからいで学院に通っているあいだは聖女の仕事を免除されることになり、自由を手に入れたあたしは本格的に秘宝集めに乗り出した。
まずはマンガで魔王が襲撃した王立図書館の隠し部屋だ。
隠し部屋の場所はマンガで読んで知っていたから、部屋の扉がある一角に誰も来ないよう
座り心地の良さそうなソファーと高級そうな机の上には紙とペンと茶器。埃が溜まってないのは防汚魔法がかけられているようだった。
部屋は円筒形の吹き抜け。壁はびっしりと本で埋まり、壁面の本棚に沿うようにぐるぐると螺旋階段が上まで続いている。この蔵書の中から一冊の本を探すのは普通は大変そうだけど、あたしは願うだけで良かった。
「秘宝に関する書物が読みたいな」
シュッと音がして、頭上で本が棚から飛び出した。赤茶色っぽいその書物はゆっくりとあたしの手のひらに着地する。表紙に『七賢秘宝書』とあった。
怪盗ミエルの初仕事はなんともあっさり獲物をゲットできてしまった。少し物足りないくらいだけど、目的のためにはやりがいより結果が大事。
さっそく書物を開いてみると、この『七賢秘宝書』が秘宝のひとつ目と書かれていた。
七賢とは王侯貴族七家門のことで、その七家門が秘宝をひとつずつ所有している。『七賢秘宝書』は王家の秘宝とあるけれど、王家が管理していてこれほどチョロいなら他は言わずもがな――かと思いきや、そうは問屋が卸さなかった。各秘宝の詳述を流し読みしてみると、わざわざ各領地まで行く必要があるらしい。
『七賢秘宝書』以外の秘宝はすべて神力を宿す宝石。七家門が秘宝を山分けして持ち帰ったのではなく、秘宝があった場所にそれぞれ城を建てたとある。所有者でさえ迂闊に触れることはできないみたいだけど、その理由は書かれていない。
あたしは長期戦を覚悟し、地道に情報収集から始めることにした。
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