18 向

 ――今、何処にいるの?

 ――今は、ここにいるわよ。でも少し前はお城の庭。


 初めての出会いから数年後に元カレと再会したのは偶然ではなく、彼がわたしを追ったのだ。今までに見たことがないタイプの女性だから気にかかった、と素直にわたしに打ち明ける。わたしは当事あの人、いや、アイツと付き合っていたので、気持ちは嬉しいのだが、とすぐに元カレを突き放す。が、そこから古風な手紙の遣り取りが一年近く続くことになる。そんな元カレと実際に会ったのは最初の映画館と、呼び出された告白時の二回だけ。わたしはそのときの喫茶店の様子を完璧/克明に憶えている。後に訊ねたところによると元カレの方は緊張していたのでまったく憶えていない、と言う。だから、わたしはあのとき元カレに関心がなかったのだと思う。もうはっきりとは思い出せないが、退屈していたのかもしれない。迷惑だとも思っていたはずだ。が、人生とはわからないものだ。わたしの心が段々と元カレに向かっていったのだから……。

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