15 瞑

 ――この先、どうする?

 ――実はね、もっと歩きたいんだ。

 ――元気だね。

 ――ううん。不元気だから、少し昔に浸りたいのよ。

 ――本当に?

 ――高校生のときに幼稚園児だったことを懐かしんだことなんて一回もなかったけどね。

 ――今では人生のすべての時間が愛おしい……とか?

 ――惜しい、かもしれないけどね。あるいは悔しいかな?

 ――そうなんだ。

 ――でも遣り直したいとは思わないわよ。それじゃ、今の自分を否定することになるから……。


 喫茶店を出て、街中をまた川の方に向かって歩く。そのとき急に思いつき、元カレに身を預けて目を瞑ってみることにする。目を瞑っているから、いつものようにスタスタとは歩けない。ノロノロで且つヨロヨロとした歩みなのだが、現実より多くの景色と時代が味わえる。コンクリートの僅かな上り下りが昔歩いた山中の温泉宿に至る一本道に入れ代わる。初めてのおつかいに摩り替わる。未来の光景にだって置き換わる。今、ここにいるのは縮んだ姿のお婆さんになったわたしなのだ。現実のわたしが行き着けなかった/元カレが行き着くのを望んでいた、未来のわたしの姿

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