13 蒼
――どうした? 急に顔色が冴えなくなったけど……。
――なんでもないわ。疲れが出たみたい。
――そうか、それならいいけど……。
――やだわ、もう。本当に若くないのかしら……
――七十過ぎても元気な人はいるよ。
――それをいったら、七十前に死んでいる人だって大勢いるわよ(お願い、気がつかないで!)。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と別れたのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と愛し合ったのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、とイタシタのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と雄/雌になったのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、とともにイッタのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と口付けを交わしたのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、とかくれんぼをしたのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、とアイツの奥さんを見たのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と隠微なことをしたのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と閉店まで粘ったのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と何度も喧嘩をしたのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と腐っていったのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と芸術論を交わしたのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、とお茶を飲んだのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と修羅を生きたのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と笑い合ったのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と困り果てたのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と心を離したのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と身体で繋がったのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と一緒に罵られたのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、とサヨナラしたのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と別れたのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、を忘れたのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、とこんがらがったのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、とピロシキを食べたのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と演技したのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、とサカッたのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と邂逅したのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と離別したのだわ。
ああ、わたし、ここであの人と、いえ、アイツ、と狂気したのだわ……。
いえ、それは全部、ウソ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます