12 吐
――どう、思い出した?
――うーん、全然。……やっぱり、あなたの勘違いなのよ。
細長い木の階段を昇って入った喫茶店に憶えはない。憶えはなかったはずだが、身体が少しだけ反応する。吐き気がして、悲しい気持ちが降りてくる。自分ではない違う女の感覚のようだ。が、そう感じた途端、その感覚が自分のものに摩り代わる。すると彼が彼ではなくなってしまう。わたしの元カレではなく、誰だか知らない他人に代わる。いや、他人ではない誰かに……。
それはわたしが知っている、わたしの知らない誰か。わたしの人生に割り込み、掻きまわして消えて行った誰か。わたしに愛を教えて指だけでわたしを逝かせた誰か。いや、違うか、今では存在しない誰か。わたしの心の中にいないだけではなく、物理的にもこの世界に存在しない誰か。そして最終的に端からこの世に存在しなくなった誰か。だから、わたしと会ったことは一度もなくて、わたしと出会う可能性もゼロ・パーセントで、ああああああ……、あの/この、わたしを毀した誰か?
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