9 浮
――本当に?
――たぶんね。でも、そういうことは起こらないから……。
――夢がないわね。
――でも、それが現実だ。
――あなたらしいわ。
――夢が夢であるうちは叶わないよ。目的か目標に変えないと……。
――ああ、わかる。じゃ、わたしの方があなたの近くに現れてあげる。あなたがこの先、またはこの過去、何処に生まれ、どんな境遇だろうと、必ず近くに現れてあげるわ。
――頼もしいね。でも、ぼくが気付かなかったら、どうするわけ?
――ダメ! それは前提違反。わたしは現れてあげるけれど、わたしを発見するのは、あなたの役目よ!
運動公園に着いて、自販機でトマトジュースを買ってトラックを走る人たちを眺めながら飲んでいたらナンパされる。『今日は何人目なの?』と訊くと、『十人目だな』と答える。それが、その日に声をかけた全員らしい。身体的には全体が毛深そうで見かけNGだったが、答が正直なので、もう少し話を続ける。『で、成功率は?』と訊ねると、『お茶は飲んだが、性交率はゼロだな』という返事。だから、さらに訊いてみる。
「ふうん、で、賭けでもしてるの? 仲間内で誰が一番多くイタスとかって……」
「ああ今日は、ないな。でも、賭けをしないとはいわないけどね」
「そう」
「彼女、性交しない?」
「ふふふ」
「思わせ振りじゃない?」
「でもさ、わたし飢えてないんだ。今日……」
「えーっ、まさか、さっきまで誰かとしてたとか?」
「それはないけど、まあ、それ以上は、ご想像にお任せします」
それから僅かに間があり、『じゃ、機会があったら……』とナンパ男があっさりわたしの許を去る。それからすぐさま目をつけたらしい、白い服を着た首の細くて長い綺麗な女の方に近づいて行く。その姿を見送りながら、あの人とはヤれるのかな、とわたしが思う。まるでナンパ男を見つめる同じ性質の母親か、あるいは自分から彼を振った元カノになったような気分で……。ナンパ男は二言三言、白い服の女に話しかけると、すぐに彼女の肩を抱き、方向的にはわたしのいる場所に向かって歩いて来る。擦れ違いざま、片目を瞑り、彼がわたしに微笑みかける。それは当時数ヶ月間でわたしが見た極上の部類に入る笑顔。
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