7 考
――雲が陽を閉ざしてから、少し寒くなってきたな。
――そうね。さっきまでちょっと汗だくだったのに、嘘みたい。
――地球は温暖化しているのかね?
――さあ、冬は寒かったけど、スパンやスケールが違うから、どうなんでしょう。
――この間、旧い映画――といっても七十年代のだけど――を見ていたら、地球寒冷化の話題が出てきて驚いたな。調べてみると当時は地球が寒冷化するのが一般手な学説だったらしい。最近の科学モデルでは否定されているみたいだが……。
――半世紀近く前と学説が正反対って良くあるの?
――どうだろう? ぼくは詳しくないけど……。
――ルイセイコ論争とかは?
――あれは政治的な話だからね。後天的に獲得した性質が遺伝される、言い換えれば、努力すれば報われる、っていう発想は共産主義国家に都合が良かっただけで、ヤロビ農法(註・春化処理農法)は残したけれど、今では信じているものはいないよ。
――そう……。
――でも直接的な証拠が得られない、もしくは得られ難い学説の場合は、いつどう転ぶかわからないんじゃないかな?
地球は丸いというけれど、誰かからそれを聞かされ、ただその言葉を信じているのならば、平らな地球に住んでいる――と信じていた――過去の人間たちと変わりない。現在では宇宙からの写真や映像があるので自ら積極的に思考しなくとも地球が実は丸いらしいと皮膚感覚で感じられるが、身近にそういう証拠がなかった昔、単に信じるのではなく、科学的思考でその仮説を受け入れた人たちは、いったいどのくらいいたのだろう?
さて?
礼儀や躾は文化だが、その文化が生まれた歴史や背景を知らなければ、今ここにある礼儀や躾の意味を理解することはできないだろう。あるいはそれらが廃れてなくなってしまったり、頑ななまでに昔の形式を踏襲しようとしていたり、逆に自ら進歩/発展/変質を受け入れたりした意味を……。
もちろん、すべてを知ることは不可能だ。時間の問題があれば、脳の容量の問題もある。それ以上に、脳の質が関連するかもしれない。また大多数の人間にとって、地球が丸いか、あるいは平らであるかは、どうでも良いことかもしれない。もちろんそれは、わたしにしても同様だ。が、わたしはそれを鵜呑みにはしたくないと思っている。独裁国家に囚われたなら、服従とは生きる方便で、自ら考えた内容/結果を口外しないのは民衆の知恵だ。けれどもそうでなければ最低一度くらいは、単に受け入れるのではなく疑ってみたいと、わたしは強く思うのだ。自ら考えた方が間違った答が多く出ることや、それ以前に答に行き着けない事例が多いと知ってはいても……。
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