5 彼

 ――奥さんとは上手くできるの?

 ――上手いかどうかはわからないけど、まあ、娘もいることだし……。

 ――面倒臭くはないんだ?

 ――面倒な時はしないよ。互いに、それはわかるし……。

 ――だから夫婦でいられるわけか?

 ――それも珍しいみたいだよ。だから、あまり話さないんだ。誰にも通じない。

 ――でもわたしだったら、いいわけ?

 ――だって、きみにはもう伝わっているだろ?

 ――そうね。

 ――その辺りは他人になっても変わらないんだな。

 ――それは結局わたしとあなたとは本質的に他人であって、ただし体質が似た他人であったってことじゃない?

 ――そうだよ。

 ――でしょ……。『そうだな』で話が終わるのだし……。


 わたしには子供の頃から彼氏が尽きない。長い付き合いもあったし、短い付き合いもあったが、結局、彼氏がいない期間はごく短い日々でしかない。そんな彼氏の中には、自分と似た人間がいれば、正反対の男もいる。それ以上に理解不能な相手もいたが、それは恋人ではなく、単に交尾の相手だったのだろう。

 男に乱れていた数年間、わたしは自分の近く/遠くで多くの男と寝たものだ。身体が上手く反応した例もあれば、そうではない例もある。わたしと似たような考えを持つ男とは話をしたが、そうでない男とは口を利かない。そのときの相手はただの雄であって、わたしも雌に徹した、ということ。人間で居るというのはある意味難しいことで、自分という形を保たなければ生きられない。動物にだって自他はあるが、それは自分自身を襲わないための方便だ。生物の体内で免疫細胞が己の細胞を攻撃しないことと同様で同義。その機構が崩れれば、何らかの理由で発生した破壊衝動は自己にも向く。破壊ほど積極的ではなくても防衛のために自己を襲う。自分で自分が護れないのだから性質(たち)が悪い。寝首を掻かれるよりも無用心。敵が己の陣営内にいるからだ。しかもそれが誰だかわからず、かつ誰でもそれになり得るから……。

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