第5話 貴方を知りたくて
自分の事ばかりを話してしまったと、照れ隠しに貴方は頭の後ろを搔く。
「……少しだけ、そう少しだけ。貴女の事も気になってきたと言ったら、笑いますか。」
今度は私に話してもらわないと、ばつが悪かったのか、貴方はそんな風に言うの。
「奇遇ですね。私ももっと貴方のお話しが聞きたくなりましたわ。」
私はそんな風に言って返す。
「僕は沢山もうお話ししたではありませんか?
この頭のネジが何かなんて、野暮な事は聞かないで下さいよ。
そりゃあ僕にも皆目検討もつかない代物なんですから。
相手を知りたいと思った頃には、恋が始まっちまう……そんな気がしましてね。」
そんな言葉の後、貴方は少し沈黙をする。そうよね、貴方には大切な人がいるのですから。それなのに、私は意地悪にもこんなお題を出すのです。
無理難題を聞いてもらうのは、何故か我儘を聞いてもらえたような、甘えた気分になるものでしょう?
「……恋と言えば初恋ですわね、やっぱり。」
と、私は悪戯っ子な気分で、貴方にお題を出したのです。
流石にこれには貴方は困るかと思いきや、お題となると話は別なようで答えてくれるのです。
「ちょいと月明かりが綺麗だから、ほんの少しなら……ねぇ。」
貴方はそう言って月明りを見上げる。
綺麗な横顔……もっと見ていたい。
悲恋の上に心中まで考え、けれどそれがきっかけで今の大事な人に逢えたのだと。
だから、その悲恋にさえ感謝している……そんな話をしてくれたのです。
まるでドラマの中の話なのに、今私の前にいる貴方が物書きだからか、美しく書き直したものか、夢物語なのかすら分からない。
……だから、恋愛の物語は書けないって……。
やはり、それを思い出すと本当だったと気付く。
貴方の美しい横顔は、今儚くあの月を見上げているのでしょうか。
「貴女とこうして逢えたのも……後、何年後に答えが分かるかもし知れませんねぇ。」
貴方は全ての出逢いと、感謝と別れも知り、そう言っている。
「……今、分かれば良いのに。」
私はそれが辛くて……夜が明けてしまうのが悲しくて、そう言ったのよ。
「あはは……そりゃあ余りにもせっかちな愛ですなぁ。」
そんな風に笑う貴方に、私……まだ伝えていない事がありますの。
嗚呼、遠くの空の蒼白さよ、どうか止まって!
どうかこの夜に、私を隠していて下さい。
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