第45話 最後の火を持つ柊雷の
風歌は宗重がここで戦っていることを聞き、この場所に現れたのだ。
最後の六牙将を、始末するために。
「わざわざ出てきてくれるとは。探す手間が省けたな」
宗重は風歌の方へ振り返ってそう口にすると、自身の武器である棒を構えた。
大業物『
彼の構えに呼応するように、風歌も刀を構えた。
大業物『
両者、やる気は十分だ。
周囲の人々がざわざわと動揺の色で囲う中、2人が睨み合う。
最も治安維持に貢献していた『薙ぎ赤鬼』が死に。
天才肌で可能性の塊だった『千変武龍』が死に。
幾度の戦闘を乗り越えてきた『囲炉裏天狗』が死に。
誰もが最強と認めていた『稲火狩り』が死に。
風歌を一度打ち負かした『刀皇』さえ死んだ。
残ったのは、犯罪者上がりの『仕置き烏』のみ。
果たして、そんな自分が彼女に勝てるのだろうか?
宗重の脳裏に、不安がよぎる。
……いいや、勝たなければならない。
たとえ
「おおっ!!」
先に動いたのは宗重だった。
鋭い突きと回転を駆使した払いによって、変則的で速い連撃を繰り出していく。
風歌は刀で次々と捌いていくが、明らかに手数が足りなかった。
棒の強みは『両側どちらも武器になる』という事。
放たれた下段の払いを飛ぶことで回避した風歌。それを見た宗重は、すかさず棒を握る指を組み替える。
即座に棒の反対側を先端として持ち替えると、空中の風歌に向かって振り上げた。
「ちっ!」
甲高い音が響き、衝撃が四散する。
上から攻撃をしようとしていた風歌はそれ以上に速い棒に襲われ、空中での防御を強要されてしまった。
続く宗重の蹴りから逃れ、風歌は反対側へ着地する。
そこへ、宗重が踏み込んだ。
数合の打ち合いが展開されたのち、刀で弾かれた勢いを利用して繰り出された棒の反対側が、風歌の頬に直撃した。
「ぐ……!」
頬骨が砕けるかのような痛みを直に植え付けられながら、風歌は横方向へ吹き飛ばされてしまう。
転がった先にいた人の輪が、悲鳴と共に更なる距離を取った。
そんな群衆の事など気にする余裕もなく、宗重は追撃をかけようと接近する。
「はあッ!」
立ち上がろうとした風歌の首元を狙って、斜めの一撃を振り下ろした。
「くっ!」
弾くと同時に横へ転がることで追撃を逃れた風歌へ、踏み込んで突きを放つ。
棒の先端が鎖骨の下へ突き刺さり、風歌は鋭い痛みを感じ取った。
「
刃物ほどの殺傷力は無いが、速い。
そして宗重ほどの猛者がそれを手にすれば、さらに重さが添加される。
風歌は刀を振り上げて棒を弾くと、反動を利用して顎を狙う棒を柄の部分でガードした。
手のひらへ強く伝わってくる振動が、風歌の神経を痺れさせる。
「調子に乗るな!!」
風歌は上半身を大きく屈ませると同時に回転し、低い姿勢からの回し蹴りで棒を弾いた。
仰け反って地を蹴り、空中で回転することによって反対側から放たれた刺突を回避する。
そして、回転を利用して宗重に斬撃を放った。
「ぐうッ!!」
宗重の突き出された腕に、刀の刃が食い込む。
咄嗟に肘を曲げて刀を引き寄せることで、重傷を回避することはできた。
とはいえ引き寄せる際に刀が擦れ、右腕の内側に大きな傷を負ってしまう。
「くそ!」
宗重は即座に左手へ棒を持ち替えると、続く風歌の刀を下がりながら弾いた。
右腕に入った切り傷から、赤黒い血が流れ出ている。
宗重は右拳を握って筋肉を絞めることで出血を緩めた後、風歌を睨みつけた。
「……こんなもんか? この程度じゃ、人間は死なないと思うが」
そう言った宗重の口元は、笑みを浮かべている。
だがその言葉を聞いた風歌も、微笑みを見せていた。
「ッ!?」
次の瞬間。突然、宗重の首元に鋭い痛みが走った。
首の皮が薄く裂け、小さじほどの血液が飛び出す。
風歌は先ほど行われた一瞬のやり取りのうちに、もう一撃を加えていたのだ。
「気付かなかったろ? 傷は浅いが、『それに気付かなかった』という事実はデカい」
堂々とした振る舞いで、風歌がそう口にする。
宗重の速さに、彼女は少しずつ順応し始めていた。
それをようやく感じ始めた宗重の額に、一筋の汗が伝う。
「覚悟しな。ぶった斬って、終わらせる」
そう口にしながらゆらりと揺れた風歌が、一気に仕掛けた。
強く踏みこんでの横一文字。
棒で防いだ宗重が反撃を放とうとした所へ、地に手を付けた風歌が振り上げるような回し蹴りを放った。
宗重は反撃を中止し、屈んで風歌の蹴りを回避する。
曲げた膝を使って突きを繰り出し、風歌の左目の上を突いた。
風歌は鋭い力で突き飛ばされる体を、宙返りで着地することにより安定させる。
「……!!」
風歌は左目のすぐ上を大きく抉られ、赤い血液が左目を覆うように垂れていた。
あと数ミリメートル下を突かれていれば、確実に失明していただろう。
手ごたえを感じた宗重だったが、斬られた右腕からの出血が想像以上に速い。
指先が細かく震えており、徐々に制御が効かなくなり始めているのが分かる。
どのみち、あと少しで決着がつくといった所か。
宗重は手先に力を込めて無理矢理震えを止め、棒を握りしめる。
風歌も目に垂れる血液を拭うと、刀を握って構えを取った。
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