第21話 闇を喰らうは威太刀鮫
秀頼を取り囲む忍者は健太郎を含めて合計5人。
明るい時間帯ではあるが、橋の下という場所と黒い忍装束とで視認がしづらくなっている。
「やはり風歌も狙っておったか」
秀頼は眉間にしわを寄せて腕を捲ると、どしりと大きな構えを取った。
腰に差してあった短剣を抜き、刃先を健太郎へ向ける。
「あの子にこれ以上、人殺しはさせん……!」
『六牙将』に殺意を向けられても、健太郎は動じない。
組んでいた腕を解くと同時に、周囲に立っていた忍者達の手元が光った。
闇に紛れて一直線に、手裏剣が飛んでくる。
「ふんッ」
軽々と手裏剣を回避した秀頼は身を翻して踏み込み、忍者の一人に向かって突っ込んだ。
だが、その時。
「ぬうッ……!?」
秀頼の後ろ首を激痛が通り過ぎた。
追従する形で、背中に刺すような痛みが襲いかかる。
振り返った秀頼は、周囲のあちこちがチカチカと光っていることに気付いた。
そして、その正体も。
短剣を振るい、向かってきた『それ』を叩き落とす。
甲高い音を立てて芝生に落とされたのは、手裏剣であった。
手裏剣が、橋の下を縦横無尽に飛び回っているのだ。
「一体、何が起こって……」
自身を落ち着かせるべく足を一歩引いた秀頼は、重心がいきなり上半身へ急移動する。
足下に張られたピアノ線に引っかかり、上半身だけが後ろに倒れ始めたのだ。
「なにッ!?」
すぐさま上半身を翻し、両手を芝生に付け腕の力で飛び上がる。
無事に着地した秀頼だったが、ピアノ線に引っかかったことで足首から血が出ている。
再び飛んできた手裏剣を撃ち払った秀頼だったが、払った先で前腕がピアノ線に引っかかり出血を引き起こした。
「うぐおォーーッ!!!」
腕が負傷して声を上げても、手裏剣は容赦なく飛んでくる。
ピアノ線だ。手裏剣が宙を行き来して襲い掛かってくるのは、張り巡らされたピアノ線をバネに移動しているからだと。
秀頼はそこでようやく気が付いた。
そうなれば、ピアノ線はかなりの本数用意されていると推測できる。
それこそジャングルに生い茂る木々のように、あちこちで。
下手に動けば引っかかってしまう。
秀頼は腕を十字に構えて力を込め、強引に手裏剣を受け止め続けることを選択した。
刺さる傷は浅いが、次々と手裏剣が襲い掛かる。
「なんて奴らじゃ……!!」
「忍者ってのは、"暗殺者"なんでね」
『黒鷲一派』の忍達は、ただ手裏剣を投げているだけで秀頼を追い詰めていた。
しかし防御しているだけではまずいと判断したのか、受けに徹していた秀頼が動き出す。
「むうん!!」
大きく短剣を払い、飛んでくる手裏剣を撃ち落した。
同時に体重を前へ傾けると、最も近くに立っていた忍者へ突進を仕掛ける。
狙われた忍者はピアノ線のある位置まで移動し、秀頼を待ち構えた。
と、その時。
足を踏み込んでいた秀頼は屈み込み、闇に紛れていたピアノ線を
突然の行動に対応ができず、忍者は胸元に短剣を突き刺されて絶命する。
「ぬうんっ!」
振り返ると同時に弓を引き絞ると、反対側に立っていた忍者を矢で貫いた。
「儂は最年長の『六牙将』……『囲炉裏天狗』ぞ。小賢しさなら、貴様らには負けん」
「何が起きて……」
ピアノ線の包囲網を攻略した秀頼に、ようやく動揺の色を見せた健太郎。
眼を凝らして見てみると、彼がピアノ線を潜り抜けられた理由に気が付く。
「ったく、クレイジーな爺さんだな。血でピアノ線を濡らしたのか」
健太郎の言った通り、ピアノ線には秀頼の赤い血が滴っており、暗闇でも視認しやすい状態になっていた。
最初に大きな動作で手裏剣を弾くことで、腕に受けていた大量の傷から血液を飛ばしたのである。
だがそれだけで勝てるほど、『黒鷲一派』は甘くなかった。
「はあッ!」
秀頼の目の前に、凄まじい速度で健太郎たちが突っ込んでくる。
3方向から放たれる忍者刀を短剣と体捌きで受け流した秀頼だったが、忍者達は空中で即座に跳ね返り再び襲いかかってきた。
「ぬうッ!?」
一人を短剣でいなし、もう一人の攻撃を回避したものの、健太郎の放った刀が秀頼の肩口を斬る。
肉の斬れる軽やかな音と共に、血が弾けた。
健太郎達は再び空中で跳ね返ると、秀頼まで一直線に突っ込んでくる。
その時。秀頼は一人の忍者の首を叩き斬り、もう一人の忍者を片手で掴んだ後、もう片方の手に握る短剣で健太郎の刀を弾いた。
掴んだ忍者を一瞬睨んだ後、大きく振りかぶって投げ飛ばす。
「そんなに
メジャーリーガーの投げるボールのような速度で投げられた忍者は背中にピアノ線が大きく食い込み、血を噴出させて絶命してしまう。
サングラス越しながら、着地した健太郎に動揺の色が浮かんでいるのが分かった。
「忍者ごときが儂に勝てると思うなよ」
「つくづくバケモンだなぁ『六牙将』ってのは……!!」
そう捨て台詞を吐いた健太郎は後ろ向きに宙返りをすると、流れる川へ飛び込んで消えてしまった。
発生した水の波紋をぼんやりと眺めながら、秀頼は血で固まった髭を撫でる。
「洗うのが大変じゃのう」
とある廃工場の中で、数人のチンピラが一人の男に銃を向けていた。
チンピラ達のリーダー格らしき、趣味の悪い水色のスーツを着た男が銃を向けられている男に話しかける。
「単独でここに乗り込む男気は誉めよう。だがアンタのような人が一人でどうにかできる組織じゃねえんだよ、ヒーローさん」
ヒーローさんと呼ばれた男はカーキ色のコートを羽織り、眼帯の上にボーラーハットを被った姿をしている男……十兵衛だった。
十兵衛は刀を抜くこともなく、銃に囲まれた状態で直立不動を貫いている。
「俺達は200人を越える構成員でできてんだ。それも今回は特別な日、ほぼ全員がこの建物に集まっている!」
「
奥から走ってきた部下らしきチンピラの姿を、塔島と呼ばれた水色スーツの男が睨んだ。
何事かと目で訴える彼に応える形で、チンピラは焦った表情を見せながら報告する。
「他の部屋にいた構成員達が全員、何者かに殺されてます!」
その言葉を聞いた、塔島を含むチンピラ達は一気に表情を固くした。
「200人を越える構成員……だったか。数え直した方が良いんじゃないか?」
チンピラ達が動揺した隙に刀を抜いていた十兵衛がそう言うと、身を翻して周囲のチンピラ達を斬っていく。
風の流れるような速さで血が飛び交い、焦ったチンピラ達が誤って味方を撃ってしまうほどに混乱した。
そして、驚くほど早くその騒ぎは収まりを見せる。
あっという間に、十兵衛はチンピラ達を撃破したのだ。
圧倒的なその強さに、塔島は銃を構える手が震えている。
「何もんだ、テメエ……」
ゆっくりと歩みを近付ける十兵衛。
塔島は手に持つ銃を発砲しようとも、逃げ出そうとも無駄だという事を察していた。
彼の目の前に立った十兵衛が、自身の名を名乗る。
「俺は『
そう名乗った十兵衛は華麗な金属音を響かせると、塔島の首を一刀両断した。
教えを乞うてからたった数日にも関わらず、『刀皇』は十兵衛の動きに足りないものを見抜いていた。
彼に教わった事を意識して戦っただけで、自分が格段に強くなった気がする。
待っていろ、『辻斬り太刀花』。
十兵衛は誰もいなくなった廃工場の中で、静かに拳を握った。
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