第15話 鉄の駕を斬る赤の鬼
砲撃によって破壊された道路に
しわがれていながらも厚みのある手でハンドルを握り、秀頼は逃げる戦車を追いかけた。
「逃さんぞ……!」
地面を揺らしながら道路を征く重戦車を、小石を吹き飛ばしてスポーツカーが追いかける。
車体を視界に捉えたその時、戦車の頭が動きだした。
砲塔がぐるんと回転し、秀頼の乗るスポーツカーを捉える。
気付いた秀頼が急ハンドルを切ると同時に、砲の口が光った。
「ッ!!」
重い破裂音と共に空気が揺れ、砲弾が炸裂する。
秀頼は急ハンドルを切り、進行方向を急転換させることで砲撃を回避した。
真横で大爆発が巻き起こり、入道雲のような黒煙が湧き起こる。
まともに食らっていれば、間違いなく無事では済まなかっただろう。
車体を押し揺らしてうねる爆風を避けながら、秀頼はハンドルを戻して軌道修正する。
砲塔は再びスポーツカーの車体を捉え、次弾を発射した。
再度地面が吹き飛び、砕けたアスファルトが方々へ散る。
ガラス越しに熱気を感じながらも、秀頼のスポーツカーはギリギリで避けることに成功した。
2度も着弾の危機に遭ったとはいえ、着々と戦車との距離は縮んでいる。
しかしその時、戦車の上に座っていた風歌が動いた。
彼女が戦車の脇から取り出したのは、黒光りする巨大な重火器。
両手で持たなければ落としてしまうほどの重量を持つ……
「なにッ!?」
「さしもの『六牙将』だろうと、火ぃ食らえば死ぬだろ?」
威勢よく口にした風歌が
「ぬうっ!!」
放たれた弾丸は容赦なくアスファルトへ穴を開け始め、秀頼に回避を強要させた。
火を噴きながら次々と放たれる弾丸を、右へ左へとハンドルを切ることで必死に避けていく。
風歌の放つ弾丸に気を取られていた秀頼は、避けた先へ戦車の砲塔が向いていることに気が付かなかった。
フロントガラス越しにその光景を覗いた彼は、もう『手遅れ』だということを察してしまう。
「まずい……!!」
次の瞬間。
砲口から破裂音が弾けて空気を揺らし、秀頼のスポーツカーが大爆発を起こした。
スポーツカーの持っていた鉄の破片は砕けたアスファルトと共に四散し、秀頼も同じく道路へと投げ出される。
重戦車の砲撃は一撃で建物を吹き飛ばす程の威力。
そんな砲撃を真正面から受けた秀頼の体は、衝撃と爆風で立てないほどダメージを受けていた。
肌の一部が火傷を負い、着ていた鎧もボロボロに焦げている。
だが、秀頼の目に諦めの色は見られなかった。
倒れた状態のまま携帯端末を取り出し、ある人物へ通信を飛ばす。
擦り切れてしまいそうな声色で、通信相手に連絡を入れた。
「やられた。『辻斬り太刀花』に、椿骸を奪われてしもうた」
「……」
通信相手は黙っていた。秀頼は気にせず、続けて口を開く。
「後は、頼んだぞ。……重松」
「分かりました。何としてでも、止めてみせます」
端末から、重くはきはきとした返事が返ってきた。
そう。秀頼が口にした通り、彼の通信相手は『薙ぎ赤鬼』こと
高速道路の出口にて、重松は待機を命令されていたのである。
秀頼から連絡を受け取った重松は携帯端末を片付けると、鬼の仮面越しに道路へ視線をやった。
まだ『辻斬り太刀花』は見えない。しかし、じきに来るだろう。
跨っている自身の馬が荒い息を吐いたのを見て、その赤い
「心配するな。大丈夫だ」
顔に付いたホイップを掠め取るような、優しい手つきで毛をなぞっていく。
そうしてしばらくが経った後、地面に振動を感じた。
まるで初期微動のような細やかな揺れ。
そんな揺れはどんどん大きくなり、着実にこちらへ近付いているのが分かる。
「来たか」
重松は顔を上げると、右手に持つ大薙刀……
地面の振動がかなり大きくなったところで、重松は馬の手綱を引く。
道路に向かって馬を走らせ始めた、その時。
一度大きな揺れが発生し、重松の視線の先から戦車が飛び出してきた。
履帯が暴力的な回転で車体を進め、こちらに気付いた砲塔が照準を合わせるべく動き始める。
「ゆくぞッ!」
だが重松は、そんな重戦車に向かって正面から突撃を仕掛けた。
馬は脚に血管が浮き出るほどの力を込めて駆け、対する戦車もその巨体にフルスピードの力を纏って突っ込んでくる。
近付けば、戦車は自爆を恐れて砲撃を
であれば、最も最適な行動は『近付くこと』なのだ。
「おおおッ!!!」
雄たけびを上げ、重松が薙刀を振り上げた。
全力の力で振り下ろした薙刀と戦車の装甲とが、真正面からぶつかり合う。
鼓膜を叩き潰すかの如きひしゃげた金属音が響き、装甲が大きく歪んだ。
めり込んだ薙刀は火花を撒き散らしながらさらなる食い込みを見せ、その刃は機関部まで到達する。
「うおおおおおおッッッ!!!!」
甲冑で覆われた丸太の如き腕に全力を込め、重松の薙刀は戦車を破壊した。
操縦者ごと機関部を潰され、激しく回転していた履帯が力なく停止する。
しかし、戦車はすぐに止まるわけではない。
時速数十キロメートルの速度による慣性で突っ込んできた数十トンの鉄の塊に、重松は馬ごと激突してしまった。
「ぐうッ……!!」
体中の神経が超高速で吹き飛ばされ、骨だけが痛みを浴びる感覚。
鎧越しでも十分に感じる、圧倒的な質量の暴力を受けた重松は後方へ吹き飛んでしまった。
分厚い甲冑を全身に纏い、2メートルを越える巨体にも関わらず重松の体はボールのように飛んでいく。
「ぐ……くそ……」
みしみし筋肉と骨が圧を受ける感覚に耐えながら、重松は倒れた体を持ち上げる。
立ち上がった彼の前に、一人の影が現れた。
茶色の後れ毛を
現れたのは、風歌だった。
「
風歌は派手にセリフを述べると同時に、手に持っていた刀……『椿骸』をぐるりと一回転させて強く握る。
もう片方の手も柄に添え、腰を落として構えを取った。
その瞳は煌々と殺意の輝きを放っており、口元は歯を見せて笑っている。
「今度は逃さんぞ」
重松は仮面越しに風歌を睨みつけると、大薙刀『牛丸白波彦』を回転させ風を起こした。
柄を握り、体の後ろに構えて腰を落とす。
以前、風歌は重松に戦闘で負け、重松はその後風歌に逃げられた。
互いに引き分けとなった2人の、リベンジマッチである。
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