第十話 正反対な2人

「いいか?まず競艇ってのは簡単に言えば順位当てゲーム。ここでミソなのが賭け方が色々あるってこと。1番簡単なのは1着か2着に入る1艇を選ぶ複勝。ただ、これは簡単すぎてオッズが低すぎる。だから却下。一般的なのは2連単か3連単だな。2連単は1着と2着、3連単は3着までを順番通りに当てる賭け方。複勝よりは難しい代わりにオッズは大きくなる」


 脅威を排除していつも通りの競艇場の雰囲気に戻ったところでナツキの競艇講座が始まった。

 レキとシキは同僚同士の話をしている。

 いずれにせよ私とナツキが一緒にいるうちは待っててくれてるんだと思う。


「次に見なきゃいけないのがスタート展示なんだが……。おっ!ちょうど始まるぞ!折角だし実際に見てみるか!」

 そう言うや否やナツキに手を引かれて私は堤防の上に登っていく。


「いいか?初心者だから小難しいことは考えないで直感で良いなと思った舟を選んでみな」

 私は何が何だかよく分かってないなりに、向こうから一斉に向かってくる6艇の舟を凝視する。

 目の前をすごい速さで颯爽と過ぎ去っていく舟に圧倒されつつも

「うーん。赤い舟がなんか良さそうに見えたけど…。なんか速かった気がする」

「そうか。3号艇か。えーっと…」


 ナツキは携帯の画面に目を向けしばらく操作してから

濱谷はまたにか。うん、なかなか悪くない直感だと思う。スリット過ぎてからも伸びてたしね。それに見てみなよ、ほら」


 ナツキが指差す方向に目を向ける。

「ちょっと分かりにくいかもしれないけど他の舟と比べてあのパイロンみたいなやつ、ターンマークって言うんだけどな。赤い舟をよく見てみな。結構キワキワを回ってるだろ。まあ例外もあるけど基本的にはキワキワで回れてる方が上手いと思ってれば良い」


 スタート展示を見終わると今度は堤防を降りて建物の中に入っていく。

「買い方も色々あるんだけどちょっとクセがあるから私が書くよ。ハルの予想教えてよ」

 私は3号艇を含めた予想をナツキに伝える。

「うんうん。オッケー。そしたら最初だし私が買っとくよ。もちろん当たったらそのままハルにあげる」

「えっ、そんなの悪いよ」

「いいのいいの。その代わりハルの買い目に私も乗らせてね。ビギナーズラックっての私は信じてるんだ」


 ナツキはそのまま投票用紙を持って舟券を買いに行った。

 ちょうど買いに行ったタイミングでレキが側に寄ってきた。


「どうです?相手するの結構大変でしょう」

「まあ確かに私とは正反対です。でもだからこそ惹かれるものもあると思うんですよね」

「そうですか。良かった、あの子の友達があなたのような方で」

「私も。最初ここに来た時はちょっと不安でしたけど」

「ちょっとちょっと2人して何の話してんのよ」


 いつの間にか舟券を買い終わっていたナツキが帰ってきていた。

「別になんてことはないですよ。そちらのペアはどんな感じだとかそういった雑談ですよ」

「ふーん。別にいいけど。はい、これがハルの分ね。じゃあ見に行こっか」

「うん!」

 ナツキに手を引かれてまた堤防を上っていく。

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