第九話 右手には銃を、左手にも銃を
後方で爆発音がしたかと思えばいつの間にかナツキとレキの姿も消えていた。
「え、何?急にどうしたの?」
「これも丁度いい機会だ。お前もあいつらを見てこれから何をしていくことになるかを学んでおけ」
そう言うとシキは私を抱き抱えて爆発から少し離れたところに飛んでいった。
「ほら、あそこ。見えるだろ?これからはお前もああやっていくんだぞ」
シキが指差す方向に目をやるとナツキとレキは宙に浮いていた。
「さーて、どこのどいつがアタシのシマに喧嘩売ってきたんだぁ?」
「出来るだけ被害拡大させないようにするんですよ?」
「わーかってるって。今日はまだお酒飲んでないから大丈夫大丈夫」
ナツキが右手を横に突き出したかと思えば、右の掌にスナイパーライフルが握られていた。
「なんか全然ヤツらの姿見えないんだけど。なんかたまたま設備の不良とかなんじゃないの?」
「そんなことあるわけないでしょう。ほら、そこにいますよ」
「えー?どこ?」
「3回の踊り場の辺りですよ」
「あーいたわ。もー、めんどくさいなー」
今度は左手を横に突き出したかと思えば、左の掌にはアサルトライフルが握られていた。
「ちょっとこれ持ってて」
レキにスナイパーライフルを持たせるや否や左手に持っていたアサルトライフルの照準を目標に定めた。
「アンタのことは見たことも知るつもりもないけど同情だけはするよ。じゃあな」
ナツキはこちらからはよく見えないが、恐らく爆発の原因がいるであろう空間に銃を乱射した。
それはもう凄まじい勢いで。
弾が尽きたのか殲滅し終えたのか銃の乱射が止むと、ナツキは私たちの方は飛んできて
「ごめんねー?怖かったでしょ、怪我無い?」
とさっきまでの雰囲気とは180度変わったナツキが私のことを心配してきた。
「そうは言ってもコイツも魔法少女になるんだ。これしきのことで泣き言を言われても困ると」
「そもそもアンタらが勝手に魔法少女になるか否か半ば強制的に決めてきたんでしょ。こっちの内心も知って欲しいよねー」
ナツキとシキがバチバチやり合ってるところに遅れてレキも飛んできた。
「もう姿も見えないので排除できたと考えて良いでしょう。お疲れ様でした」
「もしあれがレース中だったらこの3倍はやってたね。運が良かったよ、アイツも」
……跡形もなく消し飛ばされて運が良かったも何もない気がするのだが。
「それじゃあ僕は後始末の方をしてくるので」
「ん、はいはーい。今回は大変そうだねぇ」
「ただこれが僕の仕事の1つですからねぇ」
レキは建物の上の方まで飛んで行って何かをしてるようだった。
ちょっと遠すぎて肉眼じゃ分からないけど。
「あれは何してるの?」
「ここにいる人たちの記憶をイジってるんだ。お前が俺と会った時も魔法少女になるか記憶を消すかってことあったろ」
「でもあの時はたまに死ぬって言ってたじゃん。大丈夫なの?」
「あれは嘘だ。そうでも言わなかったら魔法少女にならんかっただろ」
「うーわ。嘘ついて魔法少女にならせたの。サイッテー」
ナツキが私のことをぎゅっと抱きしめながらシキに文句をつける。
「別にこいつを魔法少女にならせなくても俺はそこまで困らないが?ただ、お前の仕事が減らないだけで」
「嘘ついて魔法少女の頭数だけ増やされるのは癪に触るんだよね」
尚もバチバチな2人。
すると、そこにレツが帰ってきた。
「はー、終わりましたよ。ちょっと今日は広範でしたから疲れましたねぇ…って、どうしたんです?コレ」
「まだアタシの相方がアンタで良かったって話だよ」
「俺の同僚がこんな奴の相方だなんて同情するね」
私はそっと2人の側から離れてレツの側に移動した。
「どうしましょう。コレ」
「この2人は初めて会った時からこんな感じでしたからね。大丈夫じゃないですか?」
なんかそこまで深刻に考えることでもないみたい。
「行くよ!こんなヤツと話してても一生分かりあえる気がしない!」
「ふん。こっちも同感だ」
まだバチバチしてる2人だったが、帰りがけにナツキは私の方に近寄って
「じゃあね!ハル!何かあったら連絡して良いからね!」
と、連絡先を私に教えてくれた。
そして、レキとナツキは次にやるレースを見つけるために、堤防の上に向かって行った。
「とりあえず今日の目的は達成したからあとはお前の好きにしたらいい。今日はもう疲れたから俺は帰る」
そう言ってシキは姿を消した。
自由な時間を手にした私はそのままナツキの後を追いかけて
「ねえ!私にも教えて!」
そう言った。
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