第五話 準不思議ちゃん
教授の研究室を出ると少しの間、その場に立ち尽くしてしまった。
わずか半日の間に非日常的な出来事が自分の許容量を上回ったのだから無理もない。
「おい」
シキに声をかけられてハッとした。
ふと壁に掛かっていた時計に目をやると時計に針は17時を指していた。
今日は佐々木教授の授業以外に授業は無かったが、いつもなら既に帰りの電車に揺られている時間であった。
もう今日は帰ろう。
そう思って私は駅の方へと向かうことにした。
「シキって私以外の人には見えないんだよね」
「そうだな」
「でもこうやって私がシキと話していると私ってヤバい奴に見えない?」
「いやまあ、でも今日のあれで割と不思議ちゃん認定されたんじゃないか?」
「誰のせいだと思ってるのさ!」
廊下で思わず大声を上げてしまった。
慌てて周囲を見渡すが、幸いにも誰か人がいるような雰囲気はなかった。
「姿を見えなく出来るんだからさぁ。なんか姿を変えるとかって出来ないもんなの?」
「出来るには出来るが学内に存在しないことがバレたら色々と面倒だからな…」
変装だけするならいいけど、バレないように溶け込むってのもいろいろ大変らしい。
「だから基本的には姿を見えなくしておいた方が俺としては都合が良いんだ。虚空に一人ぼっちで声をかけてる不思議ちゃん認定をされたくなかったら、俺と話してる時は携帯でも耳に当てながら話せばいいだろう。そうすれば、誰かと話してる人って認識になるんじゃないか」
「やっぱシキって頭良いよね」
「………」
シキは黙ってスタスタ先に歩いていく。
私はその少し後ろから追うように着いて行く。
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