第三話 シキとハル

「じゃあ、行こうか」

「え、どこに?」

「そんなもん決まってるだろ。佐々木のところだよ」

「佐々木?」

「お前、さっき授業出てただろ」

 携帯を取り出してシラバスを確認してみると、確かにこの生物が出た時の教授が佐々木だった。


「まあ基本的に用事でもないとそこまで覚えないっちゃ覚えないわな。とにかく俺が見えた以上はとりあえず佐々木の所に来てもらうぞ」


 その生物は今度は二足歩行になって普通にドアを開けて廊下に出た。

「いや、ちょっと待って!そのまま出たら…!」

 絶対にパニックになる。

 そうなった時に私まで巻き込まれるのは勘弁!

 なんとかこの部屋から出さないようにと頭では理解しているんだけど、時すでに遅し。

 そいつはもう部屋から出ていた。

「ああ………、………ああ?」

 既にそいつは部屋から出ているのに廊下からは悲鳴の1つも聞こえてこない。

 私の急いで廊下に出てみる。

 決して少なくはない人数が廊下を歩いているにも関わらず、こいつに気づいている人は1人もいない。


「そもそも俺の姿が誰でも見れるなら、教室の段階で全員気づいてるだろ。もっと頭使え」

「ぐっ…」

 こんな生物に小馬鹿にされたのが少し悔しい。

「くそっ、なんだお前。変な生物のクセに」

「変な生物じゃない。俺にだって名前くらいはある。シキって呼べ。そんなお前こそ名前はなんて言うんだ」

「…ハルだよ」

「そうか」


 一言そう言ってシキはスタスタと歩き始めた。

 そのまま着いていってもなんか不自然だから、少し距離を取りつつあくまでもそこには誰もいないような雰囲気を出しながらシキの後を追って行った。


 しばらく歩いていくと佐々木教授の研究室の前に着いていた。

「教室の時の1件で佐々木は魔法少女の素質があるやつがいたことは気づいてるから特に心配とかしなくて良いからな。よし、行くぞ」

「え、ちょ待っ」

 そう言いきることも叶わずにシキはドアを開けて中に入っていた。

 しかも、ドアの隙間からちょっと見えた佐々木教授と目があったもんだから、下手にここでグズグズするのも変な感じになった。

「あーもー!」

 私は吹っ切れた感じになって研究室へと足を踏み入れた。

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