第40話 クロエの初任務


「えー、クロエ君。特例でね、AA級からのスタートであっても、冒険者としては新米だ。そのことを肝に銘じてね、これから頑張ってください」

「はい!」


 ミヅホ支部の支部長。

 あまり重要ではない支部の支部長である彼は、クロエのことを信用してはいなかった。

 モンスターの津波を阻止した功績があるとはいえ、結局はシルバーが片付けた問題だ。

 特例のAA級とはいえ、どれほどの実力があるか……。

 モンスターの多いミヅホでは、常に即戦力の冒険者が求められる。

 モンスターが強いからではない。毎日のように討伐任務が入るからだ。

 馬車馬のように働いてもらわなければ、追いつかない。

 そういう意味では、新加入のAA級冒険者とはいえ、そこまで期待はできなかった。

 なにせ、クロエはまだ十代前半の少女。

 強いことは強いだろうが、どこまで戦力になるか。


「では、最初の討伐任務に行ってもらいます」

「はい!」


 そう言って支部長は一件の任務を渡した。

 それはB級モンスターの討伐。しかし、数は数十体。巣の壊滅なのだ。

 厄介な任務だが、AA級の冒険者なら単独で突破できるレベルだ。

 これで支部長はクロエの実力を計ろうとしていた。

 しかし。


「これだけですか?」

「これだけといっても……足りないならクリアしてからもう一回、受注するのが普通です」

「えっ!? あの……実はあたし、一度、魔法を発動すると次に発動するまでに時間がかかるので……」

「つまり?」

「何度も何度も任務を受けるっていうのは……」


 ほれ見たことか。

 制限付きの力はここでは役に立たない。

 そこまで強いモンスターがいないからだ。

 支部長は呆れてため息を吐く。

 だが、クロエは地図を持ち出して、任務のエリアを確認すると、その一帯を丸く囲った。

 そして。


「なので! この一帯の任務を全部ください!」

「……はい?」

「一気に片付けるので!」

「そ、そう言われても……」

「お願いします!!」


 クロエは勢いよく頭を下げた。

 それを見て、支部長は顔をしかめる。

 あまり強くは出れない。

 特例のAA級冒険者。さらにはシルバーの関係者だ。

 下手なことはできない。

 もうどうなっても知らない。

 そう思いながら支部長はクロエのお願いを聞いた。


「危険だと思ったら、すぐに撤退することが条件ですからね! まったく! こんなこと、普通はありえないんですから!」

「ありがとうございます!!」


 ニコニコとクロエは笑いながら、お礼を言う。

 その笑顔に悪い気はしなかったものの、出てきた依頼書は十数枚。どれも討伐任務だ。

 これを一気に片付けるのは一苦労だろう。

 きっと、半分くらいで根を上げるんだろう。

 そう思いながら支部長は、すべてクロエに渡したのだった。




■■■




「支部長、本当にクロエさんを行かせてよかったんですか……? 何かあったら、本部に何を言われるか……」

「本人の希望なんだ。そのうち泣きながら帰ってくるさ」


 受付嬢にそう言いながら、支部長はため息を吐く。

 せめて三分の一くらい、片付けてくれないとほかの冒険者の負担が増える。

 それくらいはやってくれよ、と思っていると。


「支部長~……!!」


 半泣きでクロエが支部に入ってきた。

 ほれ見たことか。

 やっぱり無茶だったんだ。

 呆れて、支部長はクロエを出迎える。

 だが。


「ずみまぜん!! ほかのエリアのモンスターも倒しちゃいました!!」

「はい……?」

「依頼書にないのに、倒しちゃいました! ごめんなさい!!」


 そう言ってクロエは後ろを振り向く。

 そこには何人かの冒険者がいた。

 彼らはミヅホの冒険者たちだ。


「どういうことかな……?」

「いや、俺たちが苦戦していたら、クロエさんが一瞬で敵を倒してくれて……それで周りにいたモンスターも全部……な?」

「一瞬で……数が多すぎて部位は持ち切れなかったんですが、とりあえずあちこちに死骸があるんで、回収班をお願いします」

「……あれを全部? それ以外も……?」

「ごめんなさい……魔法が切れないうちにって思って……あの……」

「え、え、え」

「え?」

「エースだ! このミヅホ支部にエースが誕生した! 素晴らしい!!」


 そう言って支部長は歓喜しながら、たまっている依頼書を取り出した。

 そして。


「こんなに依頼が溜まっているんだ! 明日からお願いできるかな!? クロエくん」

「あ、それなら午後からなら……魔力も回復すると思うので」

「よくぞ言ってくれた! これで依頼人にペコペコしないで済む! 素晴らしい! やっと残業からも解放だ!!」


 踊り始めた支部長を見て、クロエは驚きつつ、苦笑するのだった。


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