第30話 二人の髪事情



「レオ? 起きていますか?」

「うーん……寝てる」


 朝。

 レオを起こしにきたレティシアは、ベッドで横になるレオを優しく起こした。

 レオの朝は早い。

 やるべきことがたくさんあるからだ。

 しかし、レオは特別、朝に強いわけではない。

 単純に意志が強いから、無理やり起きているだけだ。

 眠いと思いつつ、なんとかレオは体を起こす。

 すると、レティシアが暖かい紅茶を差し出した。


「どうぞ」

「ありがとー……」


 寝ぼけながらレオはそれを受け取る。

 そんなレオが朝のまどろみに浸っている間に、レティシアはレオの髪をとかし始める。

 レオとアルの違いは髪を整えているかどうか。

 二人とも癖のある髪質のため、整えなければレオの髪もアルのようになる。

 てきぱきとレティシアはレオの髪をとかし、少し遠く離れて、出来栄えを見る。


「とりあえず大丈夫そうですね。紅茶を飲み終えたら、服を着替えてください」

「うん……」


 まだまだ寝ぼけているレオに指示を出し、レティシアは部屋を出るのだった。




■■■




 朝。

 珍しく用事が入っていたアルは、フィーネによって起こされていた。


「アル様、朝です」

「知ってる……」

「では起きましょう。今日は用事があると言っておられたではないですか」

「……」


 アルはフィーネに言われて、一度体を起こす。

 そのまま瞼を閉じて、体を起こした状態で眠りに入った。


「アル様、アル様?」

「……」

「セバスさん、どうしましょうか?」

「起きなければいけないと思っていれば、起きるかと」

「起きなくてもいいやと思った場合は……?」

「起きませんな」

「なるほど……」


 フィーネは納得しつつ、とりあえずアルが起きた時用の準備を始める。

 服を用意し、軽食も運びこむ。

 その間、アルは体を起こした状態で睡眠に入っていた。

 幾度か起きたようだが、そのたびに眠りへ落ちている。

 何度か呼びかけても反応はない。

 本当に起きなければならないと思わなければ、起きないのだろう。


「フィーネ様。どうしても起こしたい場合、手段がございます」

「どのような手段でしょうか?」

「ミツバ様かエルナ様をお呼びすれば起きます」

「やめておきましょう……」


 その後が想像できるため、フィーネはセバスの案を却下した。

 今日の用事は貴族との会談だ。

 どうしても会わなければとアルが判断すれば、起きるだろう。

 そうでなければ、相手方に延期を伝えればいい。

 それができるだけの立場にアルはいる。


「セバスさん、櫛はありますか?」

「どうぞ」


 セバスはフィーネにどこからともなく出した櫛を手渡す。

 フィーネはそれを受け取り、アルの髪を整えようとするが、何度、櫛を通してもアルの髪の癖は抜けない。


「なかなか頑固ですので、やめたほうがよいかと」

「みたいですね……」

「レオナルト様のように整えているわけではありませんので。髪に関してはアルノルト様のほうが頑固なのです」


 これが日々の積み重ねか、と思いつつ、フィーネは櫛を置いた。

 くしゃくしゃの髪が直る未来が見えなかったからだ。

 おそらく直すには相当な時間がいる。

 そこまでするほどの相手でもない。


「アル様、起きませんか?」

「……起きなきゃ駄目か……?」

「起きたほうがよいかと」

「……フィーネがそういうなら起きるか……」


 ずっと夢と現実の間を行き来していたアルは、パッと目を開く。

 そのまま軽く伸びをして、ベッドを降りた。


「フィーネ、暖かい飲み物と着替えを」

「用意してあります」

「ああ……ありがとう。助かるよ」


 そうお礼を言いながら、アルは軽く髪を手で解かすと、準備に取り掛かったのだった。



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