第24話 ガイ、城に招かれる


「えい! えい!!」

「くっ! このっ!!」


 リタとガイ。

 二人の師弟が剣術の勝負をしていた。

 片や、近衛騎士見習いとして、日夜厳しい訓練に励んでいる。

 片や、帝都の冒険者としてそれなりに名が知られるようになってきた。

 年齢を考えればいい勝負になることはありえないのだが、最近のリタの成長は著しく、ガイは追い詰められていた。

 とはいえ、ガイにも理由があった。

 任務帰りで城に招かれたのだ。

 そして本命はリタとの勝負ではない。

 珍しくアルが食事に誘ったのだ。城へ。

 とんでもない話だ。

 ガイはアルの幼馴染であるが、あくまで平民。城に入ることなど日常ではない。

 幼い頃ですら、ほとんどない。

 ただ、アルが誘えば別だ。

 幼い頃に数えるほど来たことがある。そんな城に来て、ガイは緊張していた。

 子供の頃とは違う。

 精一杯、綺麗な格好をして城へ出向いた。

 とても緊張していて、思わず吐き気を催すほどだ。

 それなのに、なぜかリタと勝負をさせられている。

 意味が分からない中、ガイは善戦していた。

 だが、それも長くは続かない。


「やぁぁぁぁ!!」


 リタの放った突きがガイの左肩に命中する。

 一撃当てれば勝ちの勝負だ。

 そこで試合終了。

 ガイは初めて、リタに負けたのだ。


「勝ったぁぁぁぁ!! アル兄!! 勝ったぁぁぁぁ!!」

「おお、やるな、リタ」

「やった! やった! クーちゃんに報告してくる!!」


 あまりの嬉しさに飛び跳ねながら、リタは走り去ってしまう。

 残されたのはアルとガイ。

 ガイはため息を吐きながら、訓練の剣を片付ける。


「弟子の成長を見た感想は?」

「あいつに剣の才能があると見抜いたのは俺だぞ? 別に悔しくなんかねぇよ。近衛騎士に交じって稽古してれば、あれくらいはやるだろうよ」

「でも?」

「万全ならまだ負けん」


 胸を張るガイを見て、アルは苦笑する。

 実際、それはそうだろうな、とアルも思っていた。

 今回はたまたまリタに有利だっただけだ。

 それでも負けは負け。

 そこを否定しないのは、万全じゃない状態でも任務に出ることがある冒険者ゆえだろう。

 笑いながらアルはガイの肩を叩く。


「結構、悔しいだろ?」

「悔しくはないって言ってるだろ? 俺が言っているのは事実だ」

「はいはい」


 アルは愉快そうにしながら、歩き出す。

 アルと会話していて、城にいることを忘れていたガイだが、ふと我に返る。


「お、おい……ところで、今日は何の用件なんだ……? 俺、なんかしたか?」

「うん? 言ってなかったか?」

「何も聞いてないぞ! いきなり馬車が来て、城に来いって言うから来たんだ! リタと勝負させるだけなんてことはないよな!?」

「リタと勝負させたのはたまたまだ。時間が少し早かったからな」

「時間って……何の時間だよ……」


 胃が痛くて仕方ないといった感じでガイはお腹をおさえる。

 そんなガイに対して、アルは特別なことは何にもないといった様子で告げた。


「母上の時間だ。どうしてもお前と食事がしたいって言うからな。昔、会ったことあるだろ?」

「なん……だと……?」

「安心しろ。ちゃんと父上の許可も取ってある。母上が料理を作ってくれるらしいし、一緒に食べるぞ」


 あくまで友人を自宅に誘った。

 その程度の感覚でアルは告げる。

 だが。


「ふ……」

「ふ?」

「服を貸してくれ! あと、風呂! 風呂だ! あとは、あとは……!」

「気にするな。子供の頃は大して気にしてなかっただろ?」

「子供の頃の話だ!! 皇帝の妃に会うんだぞ!? こんな格好で会うなんて……」

「着飾る必要はないさ。そのままのお前を母上は誘ったんだしな」


 そう言ってアルは歩き出す。

 そんなアルをガイは慌てて追いかけるのだった。

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