第20話 リナレスとノーネーム



 冒険者ギルド本部・バベル。

 そこで任務を受けたリナレスは本部の廊下を歩いていた。

 そこに現れたのは白装束の冒険者。

 顔には黒い仮面。


「あら? 挨拶もなしかしら?」

「ごきげんよう、リナレス」

「ひどいわね。師匠に対して」

「……なんのことでしょうか?」

「気づかないとでも思ったのかしら? おめでとう、代替わり」


 前に会った時とは中身が違う。

 それに気づけたのは相手をよく知っていたからだ。

 ノーネームはしばし押し黙る。

 そんなノーネームを見て、リナレスはため息を吐く。


「ノーネームは楽じゃないわよ?」

「覚悟の上です」

「それならいいけれど……あなたって抜けているところがあるから心配だわ」

「抜けていません」

「まぁ、ボロを出さないように気をつけなさいな」

「言われるまでもありません」


 そう言ってノーネームは廊下を歩いていく。

 後ろから見れば、体重移動や歩く癖まですべて再現している。

 動きだけでは入れ替わりには気づかないだろう。

 しかし。


「妙に鋭いのばかりだから、心配だわ」


 同僚ともいうべき相手はSS級冒険者。

 一癖も二癖もある問題児たち。

 あらゆる面で規格外な存在ゆえに、人類という枠組みで捉えるべきではない。

 リナレスですら気づかない変化に気づくかもしれないし、僅かな情報をもとに入れ替わりに気づくかもしれない。

 そういう意味で心配だった。

 精神面での未熟さは隠しようがないからだ。


「まぁ、バレたところでどうってこともないかしらね」


 そう言ってリナレスは歩き出す。

 そんなリナレスの下に、もう一人の仮面が現れた。


「あらあら、奇遇ね? シルバー」

「奇遇だな。依頼か?」

「そうよ。あなたは?」

「上層部からの呼び出しだ」

「便利に使われているわね」

「ほかが働かないのでな」

「本当に一言余計ね? そのダサい仮面、力づくで引きはがすわよ?」

「遠慮しておこう」


 シルバーはそのままリナレスの横を通り過ぎる。

 同じ仮面でも二人は大きく違う。

 片や未熟で、片や成熟している。


「中身が老人でも驚かないわよ、あんなの」


 気分悪いわ、とつぶやきながらリナレスは本部を後にしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る