第13話 SS リナレスとシルバー



 シルバーがSS級冒険者となってしばらく経った頃。

 本部からの依頼を終えたシルバーは、依頼を回してきたクライドの下へやってきていた。


「いい加減、都合よく使うのはやめてほしいものだ」

「まぁ、気を悪くしないでくれ。お前はだいたい帝都にいるから、依頼を回しやすいんだ」


 クライドはそう言って紅茶を飲む。

 本部に舞い込んできた厄介な依頼は、基本的に本部が討伐隊を組むなどして対処するが、SS級冒険者に回されることもある。

 ただし、シルバーが現れる前はほとんどのSS級冒険者が自分勝手に動いていたため、本部としても依頼を回しづらかった。

 そういう意味ではギルド本部にとって、シルバーは救世主といえた。


「報酬は上乗せしておく」

「報酬は結構だ。それより各地の冒険者支部に金を回せ。いちいち呼び出されるのは迷惑だ」


 大陸各地に支部を持つ冒険者ギルドだが、各支部に所属している冒険者の実力差が問題となっていた。

 強力なモンスターは当然、討伐報酬もおいしい。ゆえに力のある冒険者はそちらに流れていってしまう。

 そうなると、突発的に強いモンスターが現れたとき。

 弱小の支部では対処しきれない。

 だからSS級冒険者であるシルバーが出向いたりするわけだ。


「金があれば高ランクの冒険者を繋ぎ止めて置ける。より稼げるところに行くのは、冒険者として正しい。それでも留まってほしいならギルドが金を出すべきだ」

「耳の痛い話だな」


 クライドはため息を吐きつつも、軽くうなずく。

 言っていることはもっともだからだ。


「なるべく改善するように努力する」

「頼むぞ」


 そう言ってシルバーはクライドの部屋を出ようとするが、扉に近づいた瞬間。

 強烈な悪寒を感じて、扉から距離をとった。

 そして扉がゆっくりと開く。


「あらぁ? お邪魔だったかしら? 副ギルド長」

「いや、話は終わった。二人は初対面だったな。シルバー、こいつはSS級冒険者のリナレスだ。お前と同じ、な」

「なるほど。噂のロナルド・リナレスか」


 部屋に現れた紫の髪の大男。

 体は明らかに筋肉に覆われたマッチョな男だったが、仕草は女性的。

 オネエだったのか、とシルバーは衝撃を受けたが、リナレスはそんなシルバーに眉をひそめた。


「その名は嫌いなの。リナレス、と呼びなさい。リナでもいいわよ?」

「では、リナレスとお呼びしよう。シルバーだ、よろしく」

「あらぁ? よろしくって言いながらその悪趣味な仮面を取らないの? 礼儀がなってないわね」

「仮面を取る必要があるか?」

「信頼関係を構築したいなら取るべきじゃないかしら?」

「素顔を明かすほど信頼できたら明かすとしよう」

「信頼できないってわけね。嫌な感じ。あなた、友達少ないでしょ?」

「想像に任せる」


 リナレスは腕を組み、シルバーを上から下まで値踏みするように見る。

 そして。


「あなた、嫌いだわ」

「それはどうも。俺もあなたが苦手だ」

「出会いの印象は最悪ね。これから良くなるのかしら?」

「さぁな。そちら次第だ」

「まぁ、聞いた? 副ギルド長。こんな失礼な男、見たことないわ」

「狭い世界で生きていたんだな」

「なんですって!?」


 リナレスの怒号を聞いて、シルバーの背筋に一瞬、冷や汗が垂れた。

 迷わずシルバーは転移門を開き、その場を後にすることを選択した。


「では、またいずれ」

「あ、ちょっと!」

「危機察知能力が高いやつだな」

「なによ! あの男!?」

「シルバーだ。良く働いてくれる良いやつだぞ。仮面くらい見逃してやれ」

「無理ね。あの悪趣味な仮面は美的センスが許さないの。次は剝いでやるわ」

「逃げ足が早いやつだからな。難しいと思うぞ」


 その気になれば大陸のどこにでも現れることができる魔導師。

 逃げられたら追うのは不可能だ。


「でも、優等生なんでしょ? ここで待ってたらまた来るんじゃないかしら? 待ち伏せしようかしら」

「やめてくれ……本当に」


 クライドは冷めた紅茶を飲みながら、ため息を吐くのだった。


 

 

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