第12話 SS アルとガイ



 アルの幼少期。

 城から出て遊ぶのがアルの日課だった。

 そんなアルのそばにいたのはエルナとガイ。

 二人と遊ぶのがアルの日課であり、二人といるのがアルの日常だった。

 しかし、いつも三人がそろうわけではない。


「今日はエルナ、稽古だって」

「へへへ、それじゃあ俺とアルで秘密の特訓だな!」

「どうしてそうなるんだよ……」


 ガキ大将であったガイにとって、アルと共に自分の縄張りに乱入してきたエルナは目の上のたんこぶだった。

 嫌っているわけではないが、負けっぱなしでは気が済まない。


「エルナは勇爵家の跡取り娘で、毎日、剣の達人から稽古をつけてもらってるんだぞ? 腕っぷしだけじゃ勝てないと思うぞ?」

「おいおい、勝負ってのは諦めないやつが勝つって決まってんだよ。諦めるな」

「俺は諦めてもいいだろ、俺は」

「友達の勝利を願えよ」


 そう言ってガイはアルに木剣を投げ渡す。

 やれやれとばかりにアルはそれを手に取り、構える。


「いいか。全力で打ち込んで来い! 俺はそれをギリギリで避ける! これで俺は無敵の反射神経を手に入れられる!!」

「無理だと思うけど……」


 それでもアルはガイに言われるがまま、ガイの近くまで行く。かなり近い。

 アルがひ弱とはいえ、この距離で避けるのは至難の業だ。

 試しにアルが木剣を振るうと、ガイは公言通りギリギリで避けてみせた。


「どうだ!」

「稽古なんだろ? 何度もやらないと」

「そうだな! もっと速く振っていいぞ」

「結構全力」

「おっ!? それはいいな!」


 調子に乗ったガイはどんどんアルの剣を避ける。

 見てから避けるのは簡単なため、ギリギリまで引き付けて、寸前のところで躱す。

 そのスリルを楽しんでさえいた。

 当たれば高確率で怪我という危険な稽古だが、外層育ちのガイにとっては大したことはなかった。

 しばらくすると、剣を振るうアルのほうが先に音を上げた。


「もう無理……もう振れない……」

「おいおい、もう終わりかよ! 俺はまだ元気だぞ!」

「俺が無理。もうやらない」

「えー……一人じゃ稽古にならねぇよー」


 そう言ってガイは座り込んだアルを立たせようとするが、アルは意地でも動かないとばかりに近くの物にしがみつく。


「意外に力残ってんじゃねぇか!?」

「辛くなる前にやめたんだ! 離せ!」

「付き合えよ! 友達だろ!」

「友達なら気遣えよ!」


 わいわいと二人は言い合う。

 しかし、そんな言い合いは長く続かなかった。


「なにしてるのかしら?」

「げぇっ!? エルナ!?」


 いつの間にか後ろに立っていたエルナに、ガイを驚き、後ずさる。

 そんなエルナの顔は怒りで満ちていた。


「またアルをイジメてたわね? 今日こそ許さないわよ!」

「いや、イジメられては……」

「黙ってなさい! まったくもう! 嫌なことは嫌って言わないと! あとで稽古よ!」

「全然嫌だけど……」

「待ちなさい! ガイ!」

「おい! 誤解だって!」


 追いかけられるガイ。

 追いかけるエルナ。

 稽古の成果を見せるときだぞー、とのんきに眺めているアルの目の前で、とんでもない速さで振るわれたエルナの剣によってガイが吹き飛ばされる。


「あーあ……」


 せめてもうちょっと時間を稼いでくれれば、逃げることもできたのに。

 これから起こる惨劇を覚悟して、アルはその場でため息を吐いたのだった。

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