第11話 若かりしジャック
弓神。
そう呼ばれるようになった頃。
ジャックはすでに一人だった。
毎日酒を浴びるように飲み、酔った状態で矢を射る。それでもその矢は外れない。
かつてどれほど追い求めてもたどり着けなかった境地に達していた。
皮肉なものだ。
自嘲しながらジャックは笑い、高ランクのモンスターを仕留めた。
今となっては面倒だとすら感じるモンスター討伐。
それを生きがいのようにしていた時期がジャックにもあった。
■■■
「ジャック! また討伐成功だってな! もうS級冒険者の中じゃお前に敵う奴はいないぞ!」
「あたりめぇだろ。俺の目標は上だからな」
冒険者ギルドの本部。
そこで任務の達成報告をしていたジャックは、顔なじみの冒険者にそう告げる。
S級より上。
それはSS級を意味する。
本来ならたわごとだが、ジャックならばいずれ到達できるかもしれない。そう思わせるほど、ジャックはノリにノッていた。
「さすがに言うことが違うな。けど、たたき上げでSS級になる奴はほとんどいないぞ?」
「俺がいるだろ? 俺が」
SS級冒険者は規格外の集まり。
じっくり冒険者ランクを上げればなれるというものでもない。
大抵のSS級冒険者は最初からSS級冒険者だ。あまりにも規格外だからこそ、その地位を用意される。
一般の冒険者とは隔絶しているのだ。
それでもジャックはその境地を目指していた。
そのために目につく高難易度の依頼はすべて受けていた。
「それじゃ、俺はまた依頼なんでな」
「おいおい、大丈夫か?」
「体は丈夫なんでな」
「体もそうだが……奥さんが待っているんじゃないか? 子供もまだ小さいだろ?」
「あー……あいつならわかってくれるさ。SS級になれば時間もできる。そのとき尽くすさ」
ばつが悪そうにしながら、ジャックはそう答える。
ジャックとしても妻のそばにいるべきだと思っていた。
けれど、家庭で夫をやっているときも、SS級を目指して冒険者をやっているほうが充実していた。
周りからは応援されるし、羨望のまなざしを向けられる。
自分の弓の腕も高まっているのを感じる。
けれど、家庭ではそんなことはない。
どこか自分の居場所ではないように思えて、ジャックは家庭を顧みないようになっていた。
この任務に行く前も、子供には行かないでと言われた。
それを振り切ってジャックは任務に出ていた。金のためではない。自分のために。
「まぁ、お前がそういうならいいが……」
「あいつは俺を応援してくれてるんだ。平気さ、平気」
そう言ってジャックは弓を担ぎ、依頼をこなしに向かう。
その依頼を終えて、ジャックは気分よく自宅へ戻った。
そろそろジャックをSS級にという話が出始めたと小耳にはさんだからだ。
ようやく夢がかなう。
そう思って帰宅した家には誰もいなかった。
最初は出かけているのだと思った。
けれど、しばらくして察した。
自分は捨てられたのだ、と。
それからというもの、ジャックは酒におぼれた。
友人たちが慰めにきて、酒をやめるようにすすめてきたが、ジャックはそれを断った。
友人たちは一人、また一人と傍からいなくなった。
そして一人になったジャックに残されたのは、冴えわたる弓だけだったのだ。
その弓を使い、ジャックは前にも増してモンスターを狩った。
それからしばらくして。
ジャックはSS級冒険者に任命された。
達成感はなかった。
あったのはただの虚しさ。
それからジャックはあてもなく彷徨いはじめた。
出ていった妻と娘を探すために。
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