第10話 フィーネの帰省
時期 藩国の最中
「ただいま帰りました。お父様」
帝国西部。
クライネルト公爵領にフィーネの姿があった。
藩国宰相となったアルに付き従っていたフィーネだが、一時的に実家へ帰省することになった。
理由は父であるクライネルト公爵がフィーネの身を心配したからだ。
「おお! フィーネ、よく帰った。長旅で疲れただろう? まずは休みなさい」
「いえ、それほど疲れてはいません。お父様さえよければ、このまま西部の貴族の方々に会いに行こうと思います」
西部最大の貴族であるクライネルト家。
すでにレオの陣営であることは広く伝わっている。
だいたいの西部貴族は公にはしないものの、クライネルト家に従う形でレオの陣営となっている。
だが、それも情勢次第で変わる。
そのため、フィーネは良い機会だと、西部の貴族たちと話をしようと思っていたのだ。
しかし、フィーネの父は慌ててそれを止める。
「せっかく帰ってきたというのに、そんなことをする必要はない。ゆっくり休みなさい」
「ですが……」
「たしかに西部貴族の一部は、レオナルト殿下の陣営につくことを疑問視しているが、それは私だけでどうにかなる問題だ。離反はさせない。だから安心してくれ」
「では、近くの冒険者ギルドに挨拶へ……」
「どうしてゆっくりできない!? 何かアルノルト殿下に言われたのか!?」
「いえ、疲れていないので何かしたいと思いまして……変でしょうか?」
「そんな仕事中毒者みたいなことを……アルノルト殿下はいつもお前に仕事を頼むのか?」
「頼んでくださるときもありますが……基本的に一人でなんでもできてしまう方なので、私は私でできることを探しています」
頼んでくださる。
頼まれるのが嬉しいといったような言い方だ。
そんな娘のことが心配になり、フィーネの父は探りを入れた。
「アルノルト殿下は……藩国での評判があまりよろしくないようだ。大丈夫なのか? 宰相になってお変わりになったということは……」
「お父様はアル様をお疑いですか?」
「疑うなどとんでもない! ただ、殿下は……その……やるときはやるというか、冷徹な部分もあるお方だ。そういう部分が宰相となり、全面に出ているのではないかと思ってな……良い噂を聞かないから……」
「噂は所詮、噂です。問題ありと思えば、皇帝陛下がアル様を呼び戻すはず。そうでないということは、アル様の行いは帝国の方針通りということです。混乱した藩国には確固たるリーダーが必要なのです」
「それがアルノルト殿下だと?」
「いえ、トラウゴット殿下です。アル様はそのおぜん立てをしているにすぎません。効果が出るのはもう少し先だと思いますが……きっと皇帝陛下はアル様の仕事ぶりに満足すると思います」
広く評価されるかはさておき。
そんなことをフィーネは心の中でつぶやく。
トラウゴットのために、嫌われ役を演じている。それが今のアルだ。
当然、評判も芳しくない。
評価する者は評価するだろうが、民衆には伝わらない。
アルがもっと公に評価されてほしいフィーネとしては歯がゆいことだが、それをアルが望んでいないこともわかっていた。
だから無理強いはしない。
ただし。
「私たちクライネルト家はレオナルト殿下を真っ先に支持することを決めた公爵家です。最もそばで信じるべき存在といえるでしょう。その当主たるお父様が、レオナルト殿下の兄君であるアル様を疑うようなことがあれば、陣営に亀裂が生じていると思われかねません。お気をつけを」
「あ、ああ、申し訳ない……」
怒られているわけではない。
窘められたのだ。
しばらく会わない間に娘が変わったことを自覚しつつ、フィーネの父は肩を落とす。
これから先、きっと口ではこの娘にはかなわないのだろうなと思えてならなかったからだ。
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