第8話 冒険者視点からのシルバー
とあるB級冒険者の場合
冒険者ギルド帝都支部。
そこで酒を飲む中年のB級冒険者がいた。
「おい、元気がないな? どうしたんだ?」
「ああ……実は……今日、それなりに強いモンスターの討伐に向かっていてな」
「ほう? 失敗したのか?」
「いや、討伐はしたんだが……」
冒険者は一気に酒を飲み干すと、さらにもう一杯注文する。
「おいおい、ペース早いな。大丈夫か?」
「大丈夫だ! 飲まなきゃやってられないんだよ!」
「一体、どうしたんだ? なにがあったんだよ?」
「俺たちは精一杯準備して、討伐に向かったんだ! さぁこれからやるぞというときに……あの仮面野郎が近くに転移してきやがった。そしてスッと手を振ると、何事もなく歩いていきやがった。たぶん任務帰りだったんだろう……見れば俺たちが討伐予定だったモンスターは瀕死だった。あの野郎……わざと生かしておいたんだ。手をスッと振るだけでも、十分殺せたのに……俺たちから依頼を奪わないために……」
「それは許せねぇな!? 舐めやがって!」
「違う! 俺はあいつの優しさに感動しているんだ! 俺たちのために気遣いをしてくれるあいつは良いやつだ。SS級冒険者の鏡といえるだろう!」
「おい、じゃあなんで元気がないんだ……?」
冒険者は新しく来た酒を見つめながら告げる。
「あいつ、仮面のせいで人前で飲めないだろ? なんて可哀想なやつなんだと思ってな……。この仕事帰りの一杯が飲めないだけで……人生の半分は損しているといえるだろう?」
「それはたしかにそうだな。それには同意だ」
「だろ? あんな気遣いができるやつなのに、この一杯の美味さを知らないなんて……代わりに俺が飲んでやるしかないなって……けど可哀そうだなって……それで感情がぐちゃぐちゃでな」
「そうか……それじゃあ俺も付き合うぜ」
「いいのか?」
「お互い、冒険者だしな。あいつの分まで飲んでやろうぜ」
■■■
とあるE級冒険者の場合。
帝都の近くにいるモンスターは弱いものばかりだ。
それすらも頻繁に現れたりしない。
しかし、危険であることは確かであり、脅かされる商人の数も相当なものなので、弱小モンスターのわりにはかなり報酬がよくなる。
そのため、大抵は依頼の取り合いになるのだが、暗黙の了解で新人には譲るというものがあった。
そして今日の依頼はE級冒険者の少年に譲られることになった。
ただ、少年にとって運が悪かったのは一人で討伐に挑んだことだった。
新人は必ず複数で動けという教えを破ったのは、そろそろ自分も冒険者として力をつけてきたという自信があったから。
それは目の前に現れたB級モンスターによって打ち砕かれた。
牛のような見た目のそのモンスターは、弱小モンスターを餌としているモンスターで、ときたま帝都近辺に現れる要注意モンスターだ。
こういう不測の事態が起きるから、常に複数で動けと言われているのだと、少年は尻餅をつきながら学んでいた。
ああ、自分はなんて馬鹿なんだろう。
そう後悔していた時。
突然、目の前のモンスターが泡を吹いて倒れた。
あまりに予想外な出来事に頭が追い付かない。
「新人が一人で討伐するのは感心しないな」
「え、あ、すみません……」
誰かベテランの冒険者が助けに来てくれたのだ。
助かったという思いで振り返った少年の目に飛び込んできたのは、銀仮面の魔導師だった。
冒険者ならだれでも知っている。
大陸で五人しかいないSS級冒険者。
「し、シルバーさん……!?」
「冒険者は民を守るのが仕事だ。だから自分の命をまず守れ。そうじゃなきゃ民は守れない。無理な依頼は受けない。できるだけ安全には配慮する。自信があっても複数人で依頼を受ける。基本的なことだ。学ばなかったか?」
「す、すみません……」
「謝罪はいい。本人の落ち度もあるが、依頼を受けるときに止めないほかの奴らにも問題がある。まったく……」
言いながらシルバーは泡を吹いて倒れたモンスターを軽々と持ち上げる。
そして。
「以後、教訓にすることだな。過信は身を滅ぼすぞ、新人」
「は、はい! ありがとうございます!」
「返事だけはいいな。さて、あとは帝都支部の酒飲みたちか」
説教をするしかないなと思いつつ、シルバーは帝都支部へ転移する。
そんなシルバーを見送り、冒険者の少年はつぶやく。
「すげぇ……あれがSS級冒険者……けど、なんであんな変な仮面してるんだろう……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます