第7話 ゴードンとウィリアム 出会い



 帝国の第三皇子ゴードンが連合王国に留学するというのは、両国でも問題になった。

 連合王国と帝国は同盟国というわけではなかったからだ。

 しかし、竜騎士の話を聞き、竜騎士を用いた連合王国の戦術を学びたいゴードンの熱意に負けて、皇帝によって連合王国の王に打診がなされた。

 同盟国ではないとはいえ、相手は大陸中央に君臨する帝国。

 島国である連合王国にとって、断っても実害のない話ではあった。帝国と国境を接していないからだ。

 ただ、帝国の皇子を受け入れて、帝国と交流を持っておくのは価値あることだった。

 そのため、連合王国はゴードンを受け入れた。もちろん立場を偽装して。

 とはいえ、上層部は皇子だと知っている。

 なにかあれば外交問題でもある。

 ゴードンには勝手な行動を慎むようにと厳命していたが、ついて早々ゴードンは姿を消してしまった。

 慌てる連合王国の者や、帝国からの付き人をよそに、ゴードンは空を飛ぶ赤い竜騎士を追いかけていた。


「はぁはぁ……やっと追いついたぞ」

「空を飛ぶ竜騎士を走って追いかけるとは、君は馬鹿か?」

「だが追いついた!」

「私が速度を落とし、追いつかせたのだ。本気ならとうの昔に姿が見えなくなっているぞ?」

「そこまで速いのか!? これは驚いた。本物の竜騎士を見るのは初めてでな」

「竜騎士を見るのがはじめて? たしか帝国から賓客がくると言っていたが……君がそうか?」

「賓客かどうかはわからんが、確かに俺は帝国の第三皇子ゴードンだ」


 名乗ったあと、ゴードンは固まる。

 そして慌ててポケットから紙を取り出した。


「ま、待て! 今のはなしだ! えっと、帝国北部貴族の……」

「今更遅い」

「しまった……また兄妹たちに馬鹿にされてしまう……」

「身分を偽っているのに、堂々と名乗るとは……馬鹿にされても仕方ないだろう。だが……名を偽らないのは好ましいと私は感じた。名乗りが遅れたことを謝罪しよう。ゴードン皇子。私は連合王国の第二王子、ウィリアムだ。私になら名を明かして問題あるまい。安心するといい」

「おおっ! 噂の竜騎士となった王子か! さっそくで悪いんだが、話を聞かせてくれるか? 空からの景色とはどんなものだ? 戦場では指揮しやすいのか?」


 いきなり質問をしてきたゴードンに対して、ウィリアムは面食らう。

 だが、すぐに笑顔を浮かべた。

 王子であるウィリアムには親しい友がいなかった。

 竜騎士が主力である連合王国において、竜騎士は憧れの的だ。そのせいか、王族で竜騎士となり、人気が高いウィリアムは兄とも折り合いが悪かった。

 ゆえに親し気に話しかけてくるゴードンがとても好ましかったのだ。


「空に興味があるのか?」

「無論だ。乗れるなら乗ってみたいが……そう簡単にはいくまい?」

「後ろに乗せる程度なら問題ない。ただ、アードラーの血筋は代々魔力が強いときく。飛竜は魔力が高い者を嫌う。それ次第だな」

「安心しろ。俺はそういう素質には恵まれていない! さぁ、飛ばしてくれ!」


 無遠慮にウィリアムの飛竜の背にまたがり、ゴードンはウィリアムを急かす。

 ウィリアムは自分の愛竜をちらりと見る。

 面倒そうな顔をしているが、嫌がっているわけではない。


「どうやら我が竜も気に入ったらしい。君のことを」

「ほう? 見る目のある竜だな!」


 豪快に笑うゴードンを見て、ウィリアムもつられて笑う。

 そしてウィリアムはゴードンを背に乗せて、空へと飛び立つのだった。



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