第4話 アリーダ 団長就任



「アリーダ・フォン・ヴァイトリング。これよりお前を近衛騎士団の団長に任ずる。ワシの手となり、足となり、皇族、ひいては帝国を守ってくれることを期待しているぞ」

「非才の身ではありますが、お役目をお受けいたします」


 玉座の間。

 そこでアリーダは皇帝より白いマントをかけられた。

 近衛騎士団の白いマント。その中でも団長用の特注品だ。

 形式的な挨拶のあと、皇帝はニヤリと笑う。


「ヴァイトリング侯爵はさぞや喜んでいいるだろうな。お前に剣の才があるとわかったとき、将来は近衛騎士にと言っておった。夢がかなって、さぞや満足だろう」

「はい、父は大変よろこんでおります。ただ、近衛騎士になったのは父のためではありません。陛下を支えるためです」

「嬉しいことを言ってくれる。お前ならば何でも任せられる。頼んだぞ、アリーダ団長」

「はっ、お任せを。皇帝陛下」


 近衛騎士団長の任命は皇帝の特権。

 帝位争いを共に勝ち抜いた盟友の娘を、近衛騎士団長に任命したのは贔屓だという声もあった。

 それでもアリーダは構わなかった。

 幼い頃より、父と共にいた皇帝を見てきた。将来はこの人を支えるのだと誓い、今ここでそれが叶った。

 何も知らぬ者の誹謗中傷など怖くもない。

 しっかりと職務を全うしていれば、いずれ文句を言う者はいなくなる。

 

「あまり怖い顔をしていると、部下が怖がってしまうぞ? アリーダ隊長」


 任務にまい進しようと決意した時。

 後ろから声をかけられた。

 気配を消して近づいてきたのは副団長のセオドアだった。


「セオドア隊長……私は怖い顔をしていましたか?」

「自覚なしか。やる気に満ち溢れるのはいいことだが、君の場合はどうも表情に乏しいからね。怖いんだよ、見ていると」

「はっきり言いますね」

「団長を補佐するのも副団長の務めなので。ああ、失礼。もうアリーダ団長だった」


 人を食ったような態度のセオドアを見て、アリーダは小さくため息を吐く。

 わざとセオドアがそういう態度をとっているのは、アリーダにもわかった。

 それだけアリーダが周囲を威圧しているということだ。セオドアはバランスをとっているだけ。


「以後、気を付けます」

「そうしてほしいね。今の近衛騎士団には問題児がいるからね」

「それもそうですね」


 二人がそんな会話をしていた時。

 一人の近衛騎士が二人の前に現れた。


「団長、副団長。申し訳ありません、うちの隊長が飛び出してしまいまして……」

「タイバー副隊長。手綱を握るのがあなたの仕事では?」

「はぁ……それはそうなんですが……手綱を嚙み千切る勢いなので……」

「はぁ……それでエルナはどこに?」

「東部国境の問題を聞きつけて、解決に向かいました」

「刺激するだけでは? 団長」

「聖剣使いが国境に近づいたら、どういうことになるか説明したはずですが……」

「すみません……うちの隊長が……」


 申し訳なさそうなマルクを見て、アリーダはため息を吐く。

 ここで話していても意味はないからだ。


「セオドア副団長。すぐにあとを追ってください。エルナが問題を大きくしないように。それと、私からの伝言も。次はない、と」

「了解しました。タイバー副隊長、では案内を」

「はい」


 近衛騎士隊長の権限は強い。

 ある程度の自由も許されている。

 今の近衛騎士団は近衛というよりは、皇帝の目という色のほうが強いからだ。

 ただ、その中でもエルナだけは別格。

 むやみやたらに動かれては、外交問題に発展しかねない。


「陛下は彼女を育てることを期待して、私を団長にしたのでしょうね……」


 意図はわかる。

 しかし、あまりにも重い。

 正直、それに関しては自信がないと思いつつも、アリーダは歩き始める。

 近衛騎士たちが各地を飛び回るのは、城の守りは近衛騎士団長に任されているから。

 期待には応えなければ。

 自分はもう近衛騎士団長なのだから。


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